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<荒井幸博のシネマつれづれ>梅切らぬバカ

2021年11月26日
加賀まりこが新境地

 占い師の山田珠子(加賀まりこ)は50歳近い自閉症の息子・忠男(塚地武雅)との二人暮らし。庭の梅の木は忠男にとって亡父の象徴だが、伸び放題の枝は私道まで乗り出していた。
 隣家の里村茂(渡辺いっけい)は、邪魔な梅の木と奇行を繰り返す忠男を疎ましく思っているが、里村の妻子(森口瑤子・斎藤汰鷹)は珠子と交流を育んでいた。
 珠子は自分の死後を考え、知的障害者が共同生活を送るグループホームに忠男を入居させるが、環境の変化に戸惑う忠男はホームを抜け出し、厄介な事件に巻き込まれてしまう――。

<荒井幸博のシネマつれづれ>梅切らぬバカ

 自閉症の息子を「チューさん」と呼んで寛大に包み込む母親を演じた加賀が、私生活でも事実婚の男性の息子が自閉症ということを知って驚く。
 そんな思い入れもあってか、キネマ旬報の助演女優賞を受賞した小栗康平監督「泥の河」以来40年ぶりの代表作となるであろう名演をみせている。忠男に向ける眼差しや仕草を観ているだけで胸が熱くなる。

 本作の脚本・監督を務めたのが酒田市出身の和島香太郎さん(38)。映画監督で東北芸術工科大学の理事長を務める根岸吉太郎さんや芸工大で教鞭を執っていた脚本家の加藤正人さんらが審査員の「ndjc若手映画作家育成プロジェクト2019」で選ばれて本作の製作に至ったもの。
 加賀はじめ塚地、渡辺、森口、林家正蔵、高島礼子など実力者を適材適所に配し、監督としての見事な手腕をみせた。

 親子愛に感動するだけでなく、障害者への地域住民の無理解も描かれているが、この無理解な人々はひょっとして自分自身ではないかと気づかされたりもする。
 タイトルは庭木の剪定に関する故事成語「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」から。本来は腐りやすい桜は切らない方がよく、無駄な枝がつく梅は切った方がいいという意味だが、転じて人間の教育では自由にさせた方がいい場合と、手をかけた方がいい場合とがあることを表現している。


<荒井幸博のシネマつれづれ>梅切らぬバカ
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜19時)を担当。