徹底して山形に密着したフリーペーパー

<荒井幸博のシネマつれづれ> 「おくりびと」

2008年9月12日
 恥ずかしながら、この映画をみるまで「納棺師(のうかんし)」という職の存在を知らなかった。
<荒井幸博のシネマつれづれ> 「おくりびと」

山形発のグランプリ映画

「納棺師」が主役

 人が亡くなった時、遺体を綺麗に拭いて装束を着せ、髪を整えたうえで化粧を施す——。陽の当たらないこの職業にスポットを当てて映画化するのは冒険のようにも思えるが、この企画を持ち込んだのが主人公の納棺師・大悟を演じた本木雅弘だというから驚く。
 本木演じる大悟の流れるような仕事ぶりは見事の一語に尽きる。故人に最大限の敬意を払い、美しくして納棺するという行為は崇高ですらある。
 妻の死への深い悲しみから、少しだけ時間に遅れてきた納棺師を夫が罵倒する場面。だが納棺時には妻の美しい顔がよみがえっていることに泣き崩れ、納棺師に先刻の非礼を詫びる。夫役の山田辰夫の好演もあり、ホロリとさせられると同時に、納棺師の何たるかを示してくれる場面だ。 

<荒井幸博のシネマつれづれ> 「おくりびと」

舞台は酒田市!

 大悟は最初から納棺師だったわけではない。東京の交響楽団でチェロを弾いていたのだが、コンサートの不入り続きで解散となり、突然職を失う。チェリストから足を洗い、妻とともに実家のある故郷・山形県酒田市に帰ってくる。
 「旅のお手伝い、NKエージェント」の求人広告を目にし、旅行代理店と思って応募する大悟。だが旅は旅でもNKエージェントがお手伝いするのは「この世」から「あの世」への旅だった。面接時の山崎努演じる社長のオトボケぶりと本木・大悟の生真面目さの対照に吹き出してしまう。
 
本木、広末が好演

 大悟の妻は高価なチェロを自分に内緒で買っておきながら失業した夫を責めもせず、夫の故郷にも黙ってついてくるが、偏見から夫が納棺師になることには違和感を覚える。妻役の広末涼子の演技も特筆もの。
 人の死には家族や周りの人間との深いドラマがある。納棺師の仕事はそのドラマに立ち会うことでもある。それは、大悟本人の身にも降りかかってくるのだった——。
 ロケは酒田市を中心とした庄内各地と上山市で行われた。個人的には若いころ足繁く通った映画館で、今は閉館してしまった「港座」(酒田市日吉町)と再会できたことが嬉しかった。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 「おくりびと」

脚本は東北芸工大教授

 チェリスト時代の大悟がベートーベン「第九」を演奏する交響楽団は、飯村範親が指揮する山形交響楽団。脚本は来春から東北芸術工科大学に新設される企画構想学科長に就任する小山薫堂。
 
国際映画祭で最高賞

 嬉しいニュースも飛び込んできた。9月1日まで開催されていた第32回モントリオール世界映画祭で「おくりびと」が最高賞のグランプリを獲得! 日本独特の風習や文化、かてて加えて「山形」が世界の共感を呼んだ——。山形発の名作がまた一つ誕生した。13日から公開されます。