徹底して山形に密着したフリーペーパー

ウエノ(鶴岡市)

2007年9月14日
山形発国際企業へ
ウエノ(鶴岡市)
 三国志——。180年ごろから280年ごろの中国の後漢時代末期に勃興した「魏」「呉」「蜀」の3国の抗争を描いたご存知の歴史物語だ。正史で、漫画で、ゲームで人口に膾炙(かいしゃ)する三国志の英雄、蜀の始祖・劉備を思わせる人物に鶴岡市で出会った。

電子ノイズ防止コイル
 残暑の厳しい8月末、米沢市から訪ねた筆者を迎えてくれたのは電子部品製造「ウエノ」の上野隆一社長だった。
 家電製品やパソコンなどの故障や誤作動を引き起こす原因とされるのが電子ノイズ(異常電流)。したがって家電製品の内部には必ず電子ノイズの発生を防ぐノイズフィルターコイルが組み込まれているが、ウエノはこの分野で国内最大の40 %のシェアを占めている。
ウエノ(鶴岡市)
農業からの転身
 上野社長は旧藤島町で農業を営んでいた経歴の持ち主。親から引き継いだのは2町歩(2ヘクタール)の田畑と膨大な借金だったという。30 歳代のなかばまで農業一筋だったが、ひょんなことから富士通系電子部品メーカーの下請けになって製造業に転身、独立系コイルメーカーの道を歩み始める。

低価格を追求
  設立1984年という同社が急速に「のし上がった」のは徹底した低価格戦略による。コイルといえば巻線機で作るものと創造しがちだが、ノイズフィルターコイル(トロイダルコイル)に限っては五円玉のようなリングに銅線を何重にも巻きつけていくという作業。このため機械で巻くのは不可能とされ、膨大な手作業を必要とする労働集約型の産業なのだ。

網走刑務所に外注も
 実際、上野社長自ら「当社の成長過程はコストダウンの歴史」と言い切るように、当初は内職からスタート、一時は網走刑務所や北朝鮮に外注したりと試行錯誤の毎日だったという。

中国生産で飛躍
 飛躍のきっかけは中国での委託生産。天安門事件で多くの日本企業が中国から撤退した1989年に中国に進出、現在は大連市に2カ所、東莞市、丹東市の計4カ所に委託先を抱える。人件費の安い中国での生産でコストを抑える半面、性能は他社製品に劣らないことをデータで証明し、シェア拡大につなげていった。
ウエノ(鶴岡市)
株式上場も視野に
 現在、国内では同社価格が標準になっているほか、TDKにOEM(相手先ブランドによる生産)供給するなど、同社の一挙手一投足に全国が注目する。ベンチャーキャピタルの出資も仰ぎ、山形では次の株式上場が最も近い企業と位置づけられている。

現代版「三国志・劉備」?
 一見すると村夫子然とした上野社長だが、実は天性のひらめきと強力なカリスマ性を持ち合わせた経営者と見た。このあたりの人物像が三国志マニアの筆者には劉備とオーバーラップする。
 郷里で筵(ムシロ)を売って生計を立てていた劉備は後漢王朝末期の混乱に乗じてのし上がっていく。かたや農業から転じてITの波に乗った上野社長。時空を超えた共通点があるように思う。

自動巻線機も開発へ
 さらなるコストダウンを目指してウエノが取り組んでいるのが国内初という自動巻線機の開発。今年中に10台、来年前半までに20台を量産し、手作業から機械生産への移行で海外でのシェアを伸ばそうという計画だ。実現すれば「山形発の全国企業」から「山形発の国際企業」に脱皮する可能性も出てくる。

待たれる「諸葛孔明」
 そのためにも人材育成を柱とする社内態勢の整備が急がれる。これまでトップの強烈な個性で成長してきたウエノ。いみじくも上野社長は「(劉備を補佐した)諸葛孔明が欲しい」と筆者に心情を吐露したが、これは伸び盛りの中堅企業に共通した壁でもある。この壁をどう乗り越えていくかに注目していきたい。

■株式会社ウエノ
・社長 上野隆一氏
・所在地 鶴岡市三和字堰中100
・創立 1984年
・資本金 1億1270万円
・売上高 21億3000万円
・従業員 53人
・事業内容 ノイズフィルターコイルの製造・販売