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《おしえて!編集長》出羽三山に風力発電所!?

2020年8月28日
 東京の前田建設工業という会社が県内で大規模な風力発電事業を計画していることが明らかになりました。しかも、場所が日本遺産の出羽三山にほど近いところと聞いてビックリ仰天!いったい何が起こっているの!?
《おしえて!編集長》出羽三山に風力発電所!?

そもそも、どんな計画なんですか?

 27年の運転開始目指す 

 「計画名は『山形県鶴岡市風力発電事業(仮称)』。場所は鶴岡市の羽黒山周辺と庄内町に及ぶ山林2カ所で、事業面積は約2296ヘクタール。ここに3200~4200キロワット級の風力発電機(風車)を40基整備し、最大12万8000キロワットの発電規模を目指している」
 「工期は4年後の2024年7月から27年6月までの3年間を想定、27年4~7月ごろの運転開始を目指すとしている」

規模がいまひとつピンとこないんですが…。

 規模は県内最大に 

「現在、県内では12社が17カ所で風力発電事業を行っている。17カ所はすべて庄内地区。このうち最大がジャパン・リニューアブル・エナジー(東京)で、風車は8基、発電規模は1万6000キロワット。2番目が庄内風力発電(茨城県日立市)の7基、1万4560キロワットだ」

じゃ、ダントツの1位になるじゃないですか。

 「それだけじゃない。そもそも、県内すべての事業所を合計しても風車は37基、発電規模は6万5210キロワットなんだから、1社だけでそれさえも上回る規模になる」

前田建設ってどんな会社なんですか?

《おしえて!編集長》出羽三山に風力発電所!?

 準大手ゼネコンの前田 
 
 「総合建設業、いわゆるゼネコンで、直近の売上高は約4800億円。業界的には竹中工務店、清水建設などのスーパーゼネコンに続く準大手ゼネコンに位置づけされてる。手がけた事業としては青函トンネルや柏崎刈羽原子力発電所などが知られてるね」 
 「経営の多角化を目指して7~8年前から風力発電にも力を入れていて、青森県六ケ所村と秋田県八峰町で事業を展開中。それなりの実績はあるわけだ」

ちゃんとしてそうな会社なんですね。

 動きは昨年10月から 

 「県や鶴岡市などによると、前田建設から最初に相談があったのは昨年10月。その後、6月に2回、担当者が県と市に来て計画を説明したらしい。それから8月に入って環境影響評価(アセスメント)法に基づく『計画段階環境配慮書』の縦覧を開始、計画の概要が明らかになったわけだ」
 「計画について同社では『本事業で再生可能エネルギーの推進を図ることにより、地域貢献や地域活性化、地球温暖化などに寄与することが目的』としている」

だけど場所が…。

 景観や騒音は? 

 「そこだよね。いうまでもなく羽黒山、月山、湯殿山からなる出羽三山は山岳信仰の聖地で、16年には県内初の日本遺産にも登録されている。計画している事業地の南端は出羽三山神社がある羽黒山頂から1キロほどの距離で、国宝の羽黒山五重塔にも近い」
 「荘厳な気持ちで羽黒山頂に上り、眺望を楽しもうと思ったら、眼下に広がるのは風車っていうのはギョッとするもんなあ。JR鶴岡駅に降り立ってながめる月山の風景も、手前に風車が並んで一変するだろう」
 「景観だけじゃない。風車って風切り音が結構すごくて、思わず居住まいを正してしまうような静寂さが売りのスギ並木の参道からも、『ビュンビュン』という音が聞こえてくるはずだ」

そうですよね。

《おしえて!編集長》出羽三山に風力発電所!?

 早くも反対運動 

 「それやこれやで、公式には鶴岡市の皆川治市長が『重大な懸念を持っている』と述べたほか、地元やネット上では早くも反対運動が盛り上がってる。鶴岡市大山の稲荷神社の宮司、梅本幸巳さんは『計画は庄内の人にとっては、神棚にたくさんの扇風機を並べて祀るようなものだ』と表現している」

これからどうなっていくんですか?

 紆余曲折が予想され 

 「環境アセス法上の手続きが粛々と進むことになる。配慮書の縦覧はアセス法の第一ステップで、その後、方法書、準備書、評価書、報告書などが作成され、終了するのはだいたい4年後だね。前田が着工を24年に設定しているのもこのためだ」
 「もちろん、その間に県民や市民、町民はその都度いろんな声を届けることはできる。市町村長の意見を聞いて知事が意見を出す手続きも定められてる」

じゃあ、すでに決定したわけじゃないんですね。

 「そういうこと。ただ、なぜ今回の騒動が起きてるかを冷静に考える必要はあると思うよ。俺は県外出身だし、山形市に住んでるから庄内はやや縁遠く、まして信仰心は皆無。そんな俺からみても、出羽三山周辺に巨大施設をつくっちゃあマズいと思うもの」

 なぜ出羽三山に? 

 「万一、やまコミを発行している俺の目の黒いうちにあそこにあんな施設ができちゃったら、俺は山形に来る県外者や外国人観光客、山形のご先祖さまや未来の子どもたちすべてに顔向けできない。今、こんな騒動が起きてること自体が恥ずかしい」

前田建設がけしからんと。

 「そういう人もいるけど、こんな事態を招いた原因は県にあると思うんだな」

詳しく説明してください。

 誘致したのは県? 

 「3・11後、吉村美栄子知事が『卒原発』を掲げ、30年度までに原発1基分に相当する約100万キロワットの再生可能エネルギーを開発しようという戦略を進めてるのは知ってるよね。ここまでは大多数の人が納得するだろう」 
 「ただ、この戦略はこれまでのところ概ね順調にきてるんだけど、開発目標の5割を占める風力発電は遅れ気味なんだ。焦った県は誘致を進めるため、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が作成した風況マップをもとに適地調査を行い、11年に事業候補地11カ所を公表した。その中の『庄内内陸部』はまさに今回の計画の場所なんだ」

えー、えー、えー。

 問題意識があれば 

 「もちろん『羽黒山は重要な信仰地であることから、景観に注意する』といった縛りはかけてはいるが、出羽三山周辺の歴史的、文化的、観光的な意義を考えれば、候補地に入れちゃいけなかったんだ。そこに、それらの意義が皮膚感覚として分からない首都圏の会社が名乗りを挙げたっていう構図かなあ」
 「いわば、『ここ掘れワンワン』って言われて、前田爺さんが実際に掘ろうとしたら、蜂の巣をつついたような騒ぎになっちゃったわけだ。前田にすれば『じゃあ、最初からそう言えよ!』ってところだろう」
 「吉村知事は25日の記者会見で記者から今回の計画について聞かれると『ありえないというふうに思う』って答えてるけど、前田関係者が聞いたら椅子からひっくり返るんじゃないかな(苦笑)」