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<荒井幸博のシネマつれづれ>Red

2020年2月28日
自分を覚醒していく女性

 2月21日から上映中の「Red」は直木賞作家・島本理生の初の官能小説として話題を呼んだ同名小説を三島有紀子監督が映画化した作品。主演は夏帆、共演は妻夫木聡。

<荒井幸博のシネマつれづれ>Red

 村主塔子(夏帆)は一流会社に勤める夫(間宮祥太朗)と幼稚園に通う娘を持ち、郊外の瀟洒な家で人もうらやむ暮らしを送っていた。そんなある日、塔子はかつて愛した鞍田秋彦(妻夫木)と10年ぶりに再会、情念の炎がくすぶり出し、鞍田の職場で働き始める。
 専業主婦では味わえなかった遣り甲斐を感じ、何より鞍田に会えることで塔子は活き活きとしていく。そんな塔子に好意を示す同僚の小鷹(柄本佑)の存在も塔子の心を解き放つのに一役買う。
 鞍田の部屋で空白の時間を埋めるかのように互いを激しく求めあう2人。結婚生活で仕舞い込んでいた熱い想いや欲望が解放され、満ち足りた想いに浸る塔子に、鞍田は重大な秘密を打ち明ける――。

 メガホンをとった三島監督は「原作を読んでイプセンの『人形の家』になると思った」という。確かに、育った環境が違う夫との結婚生活に悩み、本来の自分を取り戻そうとする人形の家のノラと塔子は共通する。
 夫はエリート風を吹かせる高慢でわがままな男かといえば、そうではない。彼なりに塔子を愛しているのだが、塔子からすれば自らの価値観を一方的に押し付けているだけに過ぎなかった。
 余貴美子演じる塔子の母がいう「人間、どれだけ惚れて、死んでいけるかじゃないの」という言葉が心に突き刺さる。
 三島監督は、NHKの人気ディレクターの職を投げうって映画界に飛び込んだという経歴の持ち主。進路で悩んでいた時、尊敬する女性の先輩から言われた言葉だったとか。

 新潟からの雪道を走る車中で、ジェフ・バックリィが唄う「ハレルヤ」も印象的で、2人の行き先を示唆する。
 演出、映像、音、音楽すべてに精魂を込めた三島監督渾身の一作。


<荒井幸博のシネマつれづれ>Red
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(木曜12時)を担当。