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《おしえて!編集長》大沼破産

2020年2月14日
 すでにご存じのように、百貨店の大沼が破産して創業320年の歴史に幕を下ろしました。大沼の破産はヤフーニュースや日本経済新聞の1面「春秋」で取り上げられるなど、全国の注目を浴びています。第一報から2週間以上が経過しましたが、やまコミには読者から「どうしてこうなったの?」という声が続々と寄せられています。
《おしえて!編集長》大沼破産

編集長、ということです。

 全国3番目の老舗 

 「そう言われても、それこそ2週間たって主要なことは新聞やテレビであらかた報じられてるしなあ。ちなみに大沼破産は新聞だと山形新聞と毎日新聞、テレビは山形放送が先行したのかな。毎日は珍しく殊勲甲だね」
 「新聞やテレビを見ない人たちのためにおさらいしておくと、大沼は1700年の創業で、百貨店としては1611年の松坂屋、1673年の三越に続く全国でも3番目の老舗だ。中心商店街・七日町で集客の核となって最盛期の2000年には200億円の売上高を誇った」

私も両親につれられてよく行ってました。

 時代の流れ 

 「だけど時代の流れとともに郊外や仙台市の商業施設、ネット通販などに押されるようになり、17年2月期には売上高は85億円まで減少、赤字も累積するようになった」

《おしえて!編集長》大沼破産

 引き金はMTM? 

 「この間、メインバンクの山形銀行が資金や人も投入して支えてきたんだけど、ついに万策尽き果て、17年12月末に再生ファンドを名乗る東京のマイルストーンターンアラウンドマネジメント(MTM)に〝丸投げ〟しちゃったんだな」
 「大沼はじめ地方百貨店はどこも累卵の危うきにあるとはいうものの、あの丸投げをきっかけに大沼は坂道をころがり落ちるように今回の破産へと向かった」

「丸投げ」なんて言うと、また山銀さんカリカリするんじゃあ…。

 「構わんよ、前にも言ったように金借りてないし(苦笑)。だってMTMってちょっと調べただけで手がけた再生案件がことごとく失敗していて、中でも大沼と同じ地方百貨店のななっく(盛岡市)やヤマトヤシキ(兵庫県姫路市)は青息吐息だった」

 新春名刺交換会で 

 「それが分かったから、翌年明け早々の山形商工会議所主催の新春名刺交換会で俺は山銀の長谷川吉茂頭取をつかまえて『なんでMTMなんかにしたんですか?』って問い詰めたんだよ」
 「それこそ山銀とは取引ないから、やまコミ始めてから13年間、長谷川さんと口きいたのは後にも先にもあの時だけだ。前職の時は親しくさせてもらってたけどね」

長谷川頭取、何ておっしゃったんですか?

 「MTMの社長が東大と住友銀行で自分の後輩だ、みたいなこと言ってたなあ。『じゃあ、あなたが(大沼の再生を)やりますか?』とも言わちゃったよ(苦笑)」

《おしえて!編集長》大沼破産

社長交代も目まぐるしく

 「いずれにせよ18年2月にヤマトヤシキは姫路店の閉鎖という憂き目にあい、後にななっくも19年6月に閉鎖に追い込まれてる」
 「そんなMTMが〝再生〟に乗り出して以降、大沼は破産に至るまでの2年間で社長が4人も代わるという事態に見舞われた。しかも4人とも百貨店経営という意味では素人だ」
 「19年3月には大沼の従業員らが『大沼投資組合』を結成してMTMに奪われていた全株式を買い戻し、自立を模索し始めたけど、MTMが残した負の遺産に最後まで苦しめられたようだ」

資金繰りに追われ

具体的には?

 「MTMの支配のもとで大沼は18年7月に大口取引先への支払いが履行できず、信用を失墜させたばかりか、支払いを月1回から2回にするよう求められるようになった。最後の社長になった長沢光洋氏も記者会見で『資金繰りに忙殺され、抜本的な対策が打てなかった』と吐露してた」

《おしえて!編集長》大沼破産

 スポンサーの登場 

 「MTMから株式を取り戻す資金や運転資金を援助したのがラブホテル『パール』やゴルフ場『ブラッサム』、保養施設『ヒルズサンピア』などを手がける和田有弘氏(82)だった」
 「和田氏は山形の経済界ではやや〝異端的〟な存在で、本人に会えてないから資金援助した狙いが奈辺にあるかは分からないけど、その見返りか大沼の土地と建物は昨年10月に和田氏の手に渡っている」

そうだったんですね。

 山銀との関係は? 

 「余談ながら、MTMから株式を取り戻す際、山銀に近い開発会社がMTMから株式の譲渡を受けて大沼の新オーナーになり、投資組合に賃貸する計画もあった。この計画は土壇場で流れ、最終的に投資組合は和田氏をスポンサーに選んだ」
 「大沼の経営がMTMに移った後も山銀は大沼に12億円の債権が残ってた。大沼やその後の投資組合にとって山銀も無視できない存在だったわけで、その山銀と和田氏との間には距離があったようだ。それが今回の破産と結びつくのかどうかは分からないけどね」

《おしえて!編集長》大沼破産

今後の焦点は?

 どうなる跡地 

 「大沼という百貨店は消滅するわけで、やっぱり大沼の土地と建物の行方だろう。所有権は和田氏にあるものの、登記簿をみると山銀の根抵当権がびっしり設定されてる。和田氏は食料品売り場だけでも再開したい意向のようだけど、当然、山銀との協議が必要だ」
 「耐震性の問題もある。大沼の建物は震度6強から7程度の地震で『倒壊・崩壊する危険性がある』と診断されていて、山形市から耐震工事を迫られてる。まあ普通に考えれば壊して再開発するしかないのかあ」

ふ~ん

 七日町に暗雲 

 「ただ壊すにしても十字屋山形店のケースからみて3億円以上はかかる。壊した後にどんな施設をつくるかも難しい。大沼を引き合いに出すまでもなく商業施設は採算がとれなさそうだし、これ以上マンションっていうのもね」
 「一番心配なのは入居するテナントや跡地利用が決まらず、空きビル状態が長期化することだ。お隣の済生館病院は老朽化で移転話がくすぶってるし、七日町に暗雲が立ち込めてる感じだね」