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<荒井幸博のシネマつれづれ>ジョーカー

2019年11月8日
悲哀に満ちた悪役誕生秘話

 世界中で爆発的なヒットを記録した「ジョーカー」。日本では10月4日から公開されているが、観客動員力は現在も衰えず、週末ランキングでは4週連続で首位を続けている。アメリカン・コミックスの映画版の4週連続首位は「スパイダーマン」以来17年ぶりの快挙だ。

<荒井幸博のシネマつれづれ>ジョーカー

 母親から「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」と教わって生きてきた心優しきアーサー・フレックは、コメディアンになることを夢見て道化師の格好をして毎日を過ごしている。
 極貧の生活の中でも老いた病気の母の世話もいとわないアーサーは母親から「ハッピー」と呼ばれているが、「トゥレット症候群」という精神疾患にかかっていた。
 そのせいで周囲から気味悪がられたり、不当な暴力を受けたり、仕事を失ったりと数々の理不尽な扱いを受け続ける。負のスパイラルに陥り、社会から疎外されてしまったアーサーは、やがてバットマンにとって最大にして最凶の宿敵になるジョーカーに変貌していくのだった――。
 冷酷無比なジョーカーの誕生秘話が描かれるが、知らないうちにアーサーに感情移入してしまうから恐ろしい。もちろん主演のホアキン・フェニックスの演技に負うところが大きいのだが。

 やはり公開中の瀬々敬久監督「楽園」、平山秀幸監督「閉鎖病棟―それぞれの朝―」、白石和彌監督「ひとよ」の邦画3作は「ジョーカー」に通底する作品。
 「楽園」は少女失踪事件の容疑者とされる青年や、限界集落で実直に生きてきたがちょっとした意志の齟齬(そご)から村八分にされて凶行に走る養蜂家を描く。
 「閉鎖病棟」「ひとよ」は主人公が心ならずも人を殺めてしまったところから物語が始まる。殺人に正当な理由などあるはずもないが、それぞれに同情を禁じ得ない。
 いずれも純粋な心を持ちながら悪の道へと足を踏み入れていく。そういう人物を生み出す社会にこそ問題があるのではないかと考えさせられる一連の作品群だ。


<荒井幸博のシネマつれづれ>ジョーカー
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(木曜12時)を担当。