徹底して山形に密着したフリーペーパー

<荒井幸博のシネマつれづれ> クライマーズ・ハイ

2008年8月8日
緊張感みなぎる骨太の作品
<荒井幸博のシネマつれづれ> クライマーズ・ハイ

23年前の日航機事故  

 23年前の8月12日、日航ジャンボ機が群馬県の御巣鷹山に墜落、520人が犠牲になった。世界最悪の航空機事故と騒がれた、この大惨事の報道で揺れる地元新聞社の人間模様を描いたベストセラー小説の映画化が公開中の「クライマーズ・ハイ」だ。
 原作者の横山秀夫は当時、地元新聞の記者として自ら取材に携わった体験を持つ。それだけに地方紙記者たちの奮闘と葛藤、様々なせめぎ合いがリアルに描かれている。
 
地方紙内部の葛藤

 地方紙と全国紙の報道合戦は想像がつくが、同じ社内でも強烈なせめぎ合いがあったことにまず驚かされる。
 この事故の全権デスク悠木はスクープ記事をモノにするため原稿の締め切り時間を延ばそうとするが、新聞を速やかに印刷・配達したい販売局と利害が相反し、たびたび争いが起きる。
 悠木はまた、事故の緊張感や悲しみを損ねかねない広告を外そうとするが、広告局からは「広告収入がなけりゃ、天下国家を語ったところで新聞は一日たりとも出せねえんだよ!」と食ってかかられる。

世代間争いもテーマ

 そして編集局の内部でも世代間争いがあった。初期の段階では墜落現場が群馬なのか長野なのかが判明せず、取材現場の記者たちは確認に追われるが、悠木は自分たちの上司世代の心情を指して「連中は祈ってるさ、長野であってくれって」と吐き捨てる。
 上司世代が現場の記者だったころ、群馬は立て続けに起きた大事件の舞台になった。ひとつが1971年3月から5月にかけて起きた大久保清による連続婦女暴行殺人事件。もうひとつが72年2月の浅間山荘事件に端を発する連合赤軍事件だ。

<荒井幸博のシネマつれづれ> クライマーズ・ハイ

興味深い「男の嫉妬」
 
 上司世代は地元で起きた二つの大事件を全国に発信するという「チャンス」に恵まれ、それを勲章にしてきた。日航機事故は犠牲者や遺族のことを想えば不謹慎な書き方になるが、悠木たち現場の記者にとっては再び巡ってきた「千載一遇のチャンス」だ。
 これを上司も喜ぶのかと思いきや、そう単純ではないのが世代間争い。男の嫉妬が描かれていて興味深い。
 
適材適所の配役

 悠木を演じる堤真一と、命がけでつかんだスクープをボツにされかかる記者・佐山役の堺雅人、それに販売局長役の皆川猿時の演技が光る。
 かつて第一線で活躍した社会部長・遠藤憲一、大スクープにつながる事故原因を追う若手女性記者・玉置の尾野真千子、新聞社のワンマン社長役の山崎努と、すべて適材適所の配役。
 これら主要キャストのほか、原田眞人監督は編集局フロアにいる50人も全てオーディションで選び、それぞれに性格や趣味、ニックネームなどを設定、それを踏まえた動きをさせていた。普通ならエキストラで間に合わるところだが、このこだわりがあったからこそ緊張感みなぎる骨太の作品になったのだろう。