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医学のうんちく/精子バンク(下)

2019年8月9日
 日本では現在、精子バンクを使った人工授精が大きな岐路に立たされています。

パイオニア・慶大の苦悩

 前号でも紹介したように、1948年に日本で最初に人工授精による不妊治療を実施したのは慶応大学で、2年前まで年間約1600件、日本全体の実施件数のおよそ半分を慶大が担っていました。その慶大が昨年8月から新規患者の受け入れを停止しているのです。
 その背景ですが、日本産科婦人科学会の見解では、プライバシー保護の観点から精子提供者は匿名としています。しかし人工授精で生まれてきた子が成長して「出自を知る権利」を求めた場合、慶大としても将来的にこれに応じざるを得ない可能性が出てきます。
 その旨を2年前に同意書に明記したところ、“ためらい”からか新たな精子提供者が激減、必要な精子の量が確保できなくなったというのです。

医学のうんちく/精子バンク(下)

出自を求める権利

 実は、出自を知る権利を求める、認める動きは世界的な潮流なのです。米国では2006年、人工授精で生まれた16歳の少年が遺伝子検査会社に依頼し精子提供者を見つけ出しています。
 オーストラリアでは17年、人工授精で生まれたすべての人が精子提供者の同意がなくても提供者を特定できる情報が得られるという法律が施行されました。

求められる法整備

 慶大の悩みは人工授精を実施する他の医療機関にも共通しています。
 出自を知る権利や、生まれた子の父親が精子提供者か育てた男性のどちらなのかといった法律の整備がない限り、精子提供者不足の問題は今後も続くと考えられます。

対応が遅れると

 法整備が遅れれば、子どもを欲しい人たちが医療機関を介さない個人運営の自称「精子バンク」に走らざるを得ず、新たなトラブルが生じることが懸念されます。


医学のうんちく/精子バンク(下)
医学のうんちく/Y染色体のお話(中)
山形徳洲会病院長
笹川 五十次
(ささがわ・いそじ)1982年 富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業、86年同大学大学院修了後、ハワイ州立大学医学部を経て、04年に山形徳洲会病院副院長、08年から現職。日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医、日本透析医学会認定透析専門医、日本腎臓学会認定腎臓専門医。