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シベール ASフーズ(山梨)に事業譲渡

2019年4月12日
 民事再生手続き中のシベールが、山梨県中央市の食品メーカー「ASフーズ」に全事業を譲渡するんですって。編集長に聞けばシベールのブランドや店舗、従業員は従来のままで、素人目には何も変わらないとか。ホッと一安心というところですが、手続きの進め方を巡って山形銀行の姿勢に疑問の声も上がっているようです。
シベール ASフーズ(山梨)に事業譲渡
全事業を譲渡っていうのは〝身売り〟ってことですか?

  譲渡額9億5000万円  

 「女子が身売りなんて言葉を使うのもどうかと思うけど、ズバリそうだね。ただ、やまコミ299号でも指摘したように、当初に譲渡先として先行していた名古屋の食品メーカーに比べればASフーズの財務内容は健全だし、提示した譲渡金額の9億5000万円も1番高かったそうだ」
 「3日に行われた会見でもASフーズの小田切一哉社長は『シベールのファンだった』と語り、ASフーズとの相乗効果で再建に明るい見通しを示していたことは県民にとっては嬉しいよね」

そもそもASフーズってどんな会社なんですか?

  ASフーズとは  

 「リネンサプライ業のアダストサービス(山梨県昭和町)のグループ会社で、和洋菓子のほか梅加工品、ニンニク加工品の製造などを手がけている。昨年からは洋菓子店やカフェレストランの展開に乗り出すなど小売り部門にも力を入れていて、直近の売上高は21億4000万円だ」

今後のスケジュールって?

 見た目は変わらず  

 「正式な譲渡日は6月3日で、ASフーズが設立する新シベールが受け皿会社になる。旧シベールは清算されるけど、新シベールが旧シベールの全事業を継承するから、ブランドや山形と宮城にある19の店舗、従業員の雇用などはそのまま。要は素人目には何も変わらないってことだね」

とりあえずはよかったんじゃないですか?

 「シベールの負債総額は約19億5900万円。今後は清算業務として譲渡金の9億5000万円を原資に200社超の債権者に弁済していくんだけど、その弁済のやり方や、そもそもの民事再生法の適用申請を巡ってメーンバンクの山形銀行の姿勢に批判の声が強まっているんだ」

山銀さんのどんなところに?

シベール ASフーズ(山梨)に事業譲渡
 メーンバンクは山銀  

 「間口1間半(約2メートル)の小さな和菓子屋からスタートしたシベールのもともとのメーンバンクは旧殖産銀行、現在のきらやか銀行だったんだ。それがラスクで急成長し、ジャスダック上場を果たした2005年あたりからメーンバンクは山銀に変わる」
 「その後、競合他社の出現でシベールの業績は下降線をたどり、18年8月期まで3期連続の赤字を計上して1月17日に山形地裁に民事再生法の適用を申請するに至る」
 「この間、山銀でナンバー2の常務を務めた黒木誠司氏が15年に社長に就任、現在も4人の取締役中、黒木氏を含め2人が山銀OBだ」

ガチガチですね。

  周囲は信頼するも 

 「投資家や取引先、他の金融機関だってそう思うさ。ましてシベールの自己資本比率は30・5%で債務超過でもなく、繰越欠損金もゼロ。3年続きの赤字といっても『なんやかんや言っても山銀がなんとかするだろう』とみんなが思っていた」
 「それが、山銀は早々と見切りをつけたんだな。大物OBとして黒木氏は古巣に強く支援を要請したらしいけど、赤字を理由に袖にされたようだ。黒木氏は俺も長い付き合いで、それなりの人物なんだけど、シベールの社長になってからは針のムシロだったんじゃないかな。2階に上がってハシゴを外されたようなもんだ」

ふ~ん。

  対外的に「心配なし」と 

 「さらに、目先的には綱渡りの資金繰りが続いているにも関わらず、シベールが昨年12月28日に発表した決算短信には『今後も安定的な資金調達が見込まれる』とし、1月11日に発表した有価証券報告書には『継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められない』と記載している」
 「つまり『金融機関、常識的にはメーンバンクの山銀が面倒をみてくれるから倒産の心配はありませんよ』とアピールしてるわけだけど、その直後の1月17日に民事再生法の適用申請だろ。周囲はみんな『はあ?』って思うよね」

思うでしょうね。
シベール ASフーズ(山梨)に事業譲渡
 紛糾した債権者集会 

 「それだけじゃない。山銀は昨年9月3日、シベールの全不動産に対し単独で極度額13億円の根抵当権を設定してるんだ。通常、上場企業から担保や抵当なんてとらない。赤字で与信に不安があったという判断なんだろうけど」
 「それならそれで他の金融機関にも情報を開示し、債権額に応じて平等に設定するのがスジだ。根抵当権は民事再生手続きにおいても『別除権』として扱われ、その分の山銀の債権は保全されることになる」
 「それやこれやで、1月21日に行われた債権者説明会では他の金融機関、特にメガバンクからは山銀のやり方に批判が集中、『詐害行為だ!』『計画倒産じゃないか!』などと指弾されている」
 「銀行が他行を批判するなんて『天に唾する』みたいで普通はやらないもんだけど、メガバンクが憤るほど山銀のやり方がエゲつないってことなんだろう」

  不良債権処理費が重荷? 

エゲつないなんて言ったら山銀さん、怒るんじゃ?

 「いいよ、うちは取引ないし(苦笑)。察するに超金融緩和の長期化で本業のもうけを示す純利益は低下の一途。その一方で融資先の経営悪化で不良債権処理費用は膨らむばかり」
 「これは県内のどの金融機関も同じだけど、山銀はガタイが大きいだけに危機感が強いようだ。畢竟、体力があるうちに禍根を取り除いておこうと必死なんだろうな」

 地銀本来の使命とは 

 「ただ、地方銀行には地域経済を支えるっていう使命もあるはず。赤字が3年続いたからって、数少ない県内上場企業をバッサリ切り捨てるのはどうなのかね」
 「シベールだけじゃない。結果的に資金ショートをきたす東京のファンドに大沼の経営を任せたり、ヤマザワの創業会長を解任したりで、県内他行からは『山銀は焦ってる』との声も聞かれる。一連のやり方が金融庁の耳に入ったら大ごとになるかもね」