内科あれこれ/「がん告知」について
2018年12月28日
私が医師になってはや35年。この間、最も変わったと感じるのは「がんの告知」です。
かつては「告知せず」
医師になった1990年代、がんの患者さん本人に告知しないのは当たり前でした。実際、当時の日本医師会は「諸条件が整っていなければ告知すべきではない」と判断していたのです。
ただ、当時も欧米ではがん告知は常識になっていたほか、週刊誌などでも尊厳死や治療法選択の問題から告知が必要なのではないかという問題提起はなされていました。
それらを受け、私が勤務していた病院でも「どういった場合に告知すべきか」を検討していた記憶はあります。

裁判を機に「告知」へ
それがある時期を境にガラリと変わり、がんがあれば必ず本人に告知することになったのです。
この「コペルニクス的転回」をもたらしたのはある裁判でした。その裁判で下された判決を通じ「がん患者本人にきちんと告知していなければ、亡くなった後に遺族から訴えられ、敗訴してしまう」という危機感が医療業界に一気に広がったのです。
告知後のケアが課題
がん告知が一般的に行われるようになった現在、医療現場では告知後の患者さんのケアが十分になされているかという課題が突きつけられています。告知した方がいいのか、しない方がいいのかは〝永遠のテーマ〟のような気がします。
知らないでいる権利も
開業してから、ごくわずかですが告知してよかったケースも、逆のケースも経験しました。そういう体験を積み重ねていくにつれ、「知らないでいる権利もあったのでは」という思いがぬぐえません。


きくち内科医院 院長
菊地 義文
プロフィール
● (きくち・よしふみ)1985年(昭和60年)東北大学医学部卒業。同大医学部第三内科を経て96年に山形市立病院済生館へ。2013年4月に「きくち内科医院」開院。
菊地 義文
プロフィール
● (きくち・よしふみ)1985年(昭和60年)東北大学医学部卒業。同大医学部第三内科を経て96年に山形市立病院済生館へ。2013年4月に「きくち内科医院」開院。