<荒井幸博のシネマつれづれ> 山形国際ドキュメンタりー映画祭
「山形国際ドキュメンタリー映画祭2015」が10月8日から15日まで開催される。1989年に山形市制施行100周年記念事業の一つとして産声を上げて以降、隔年で開催されており、今年で14回目になる。

注目作を2つ紹介しましょう。ひとつは「戦場(いくさば)ぬ止(とぅどぅ)み」で、沖縄県辺野古の米軍基地建設反対運動を続ける人々と、国と折り合って生きざるを得ない人々を描いた作品。
85歳の今も敢然と反対運動に奔走(ほんそう)する文子おばぁは、沖縄戦で母、弟とともに米軍の手榴弾(しゅりゅうだん)、火炎放射の被害に遭うなどの悲惨な体験を持つだけに鬼気迫るものがある。
菅義偉官房長官が会見で「粛々(しゅくしゅく)と埋め立て作業を進める」と発言した意味を改めて問い直してしまう思いだ。
「無音の叫び声―農民詩人木村迪夫(みちお)の牧野村物語―」は上山市牧野で農業に勤しむ傍ら60年以上も詩を綴(つづ)り続け、現代詩人賞など数々の賞を受賞した木村迪夫さんを追いかけた作品。
9歳の時に太平洋戦争で父を亡くし、戦争の悲惨さや、戦後の〝猫の目農政〟に対する農民の声なき声を詩で訴えて今年80歳になる木村さんの反骨精神の根幹に迫る力作だ。
成田空港建設に反対する農民運動を描いた「三里塚」シリーズで知られる世界的ドキュメンタリー映画作家の故・小川紳介監督は70年代半ばから上山市牧野に移住、「ニッポン国古屋敷村」(82)、「1000年刻みの日時計 牧野村物語」(86)を発表している。小川監督を牧野に呼び寄せたのが木村さんで、その経緯も描かれている。
「山形国際ドキュメンタリー映画祭」の提唱者は実は小川監督。そして木村さんとの縁がなければ映画祭の今はなかったことを考えれば「無音の叫び声」の上映は感慨深いものがある。
木村さんの詩を朗読するのは舞踏家・俳優の田中泯(みん)さん。上映後は原村政樹監督と木村さん、田中さんが登壇して舞台挨拶(あいさつ)を行います。

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。