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<荒井幸博のシネマつれづれ> 天空の蜂

2015年9月11日
透ける原発行政の混迷

 ベストセラー作家・東野圭吾の同名小説を「悼(いた)む人」の堤幸彦監督が映画化。小説は東日本大震災のはるか前の1995年に刊行され、福島第1原発の事故や原子力行政の不備を予見していたかのような内容で再評価されている。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 天空の蜂

 舞台は95年。防衛庁の超巨大ヘリコプター「ビッグB」がテロリストの遠隔操作で動き出し、福井県の原子力発電所の上空に現れる。テロリストは「天空の蜂」と名乗り、日本政府に対して、燃料がなくなる8時間以内に国内すべての原発を破棄するよう要求。従わなければ大量の爆発物を積んだビッグBを原子炉に墜落させると通告してきた。
 万が一、原子炉が爆発した場合は関東から中部地方までが広範囲に放射能で汚染され、日本は取り返しのつかないことになってしまう。しかもビッグBの設計士・湯原の小学生の息子が好奇心からこのヘリに乗ったままでいた。容赦ないカウントダウンが始まる――。

 湯原に江口洋介、原発設計士・三島に本木雅弘。江口と本木は意外にも初共演だが、かつては親友同士でありながらある事件を契機に袂(たもと)を分かつことになった湯原と三島になりきり、まさに火花を散らす競演。そして堤作品では「トリック」でお馴染(なじ)みの仲間由紀恵が花を添える。
 このほか綾野剛、向井理、柄本明、竹中直人、石橋蓮司、佐藤二朗、光石研、落合モトキらが脇を固め、石橋けい、カゴシマジローら無名俳優も重要な役を担う。
 スリル、サスペンス、ミステリーの娯楽性に加え、原発タブーに挑む社会性も併せ持つ力作。「悼む人」のほか「20世紀少年」「明日の記憶」を手がけた堤幸彦監督ならではの作品だ。

 「3・11」以降、原発の安全神話は崩れ、問題点は何も解決されないまま。にもかかわらず8月11日に再稼働した九州電力・川内原発1号機。原子力行政の混迷ぶりは当時も今も変わらないように感じられる。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 天空の蜂
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。