徹底して山形に密着したフリーペーパー

<荒井幸博のシネマつれづれ> 野火

2015年8月28日
戦争許すまじの入魂作

 日本の敗北が濃厚になった第二次大戦末期のフィリピン・レイテ島。結核を患った田村一等兵は部隊を追放され野戦病院に送られる。だが食糧不足を理由に病院からも入院を拒絶されてしまう。
 飢えや孤独に苦しみながらジャングルをさまよう田村はかつての仲間と遭遇するが、彼らの命をつないでいたのは――。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 野火

 大岡昇平の同名小説の映画化作品。監督、脚本、製作、主演は塚本晋也。共演はリリー・フランキー、森優作ら。
 描かれているのは戦争の何たるか。随所に現れる死体はただ横たわっているのではなく、手足がなかったり、内臓が飛び出していたりで思わず目を覆いたくなるほど。
 銃の一斉掃射で砕け散る顔面、流れ出る脳みそ、それを踏み散らし逃げ惑う兵士…。
 文字通りの「地獄絵図」。これが戦争だと突きつけられる思いだ。

 先日、キャンペーンで山形を訪れた塚本監督に話をうかがうと「原作を読んだのは高校時代。フィリピンの美しい自然と人間の暗さのコントラストが強く印象に残った」と話してくれた。
 その印象は映画で見事に生かされ、地獄絵図とは対照的に草木の緑、赤い花、蛍の光の青などは目を見張る美しさだ。

 塚本監督が映画化を考えたのは20代のころからだったとか。資金不足もあって実現は延び延びになっていたが、ここ数年、取材対象の戦争体験者がどんどん亡くなっていくのに加え、昨今は戦争を肯定する空気がまん延し始めたことで居ても立ってもいられなくなったという。
 当初は大作も考えたが、作るのは今しかないと判断、自身が4役をこなし、ボランティアスタッフを募ることで映画化に踏み切った。配給までも自身でやる徹底ぶり。

 今年は戦後70年の節目。国会で安全保障関連法案も審議される中で公開される「野火」は、戦争許すまじの炎を40年燃やし続けた塚本監督入魂の映画といえるだろう。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 野火
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。