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<荒井幸博のシネマつれづれ> 愛を積むひと

2015年6月26日
しみじみ心に染みる名作

 第二の人生を大自然の中で過ごそうと、経営していた工場を閉じて北海道に移り住んだ熟年夫婦の篤史(佐藤浩市)と良子(樋口可南子)。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 愛を積むひと
 野菜作りや家の模様替えなど日々の生活を満喫する良子に対し、仕事人間だった篤史は手持ち無沙汰で暇を持て余すばかり。そんな夫を見かねた良子は、家を囲む石塀作りを依頼する。
 篤史は石を積む作業に精を出し、良子の誕生日にはこれまでもそうだったように一粒の真珠を贈る。大きさや輝きは不ぞろいでも、いつか世界に一つだけのネックレスができあがるはず――。そんな2人の幸せも、以前から患(わずら)っていた心臓病の悪化で良子が他界し、突然絶たれてしまう。

 深い悲しみに沈む篤史のもとに良子から手紙が届く。自身の死期を悟った良子が篤史のこれからを案じ、何通もの手紙を書いていたのだ。家の中のあちこちから見つかる手紙の数々。それらを読み進むうち、閉ざされていた篤史の心は少しずつ開き始めていく。
 石塀作りを手伝いに来る青年(野村周平)とその恋人(杉咲花)と心を通わせ、疎遠にしていた東京にいる娘(北川景子)との再会などを通じ、前を向いて歩き始める篤史だった。

 髪を染めずに地の白髪で臨み、男の弱さを素直に露呈する篤史役の佐藤は亡き父・三國連太郎をほうふつさせる熱演。良子役の樋口はソフトバンクのCMでお馴染みだが、渡辺謙演じる若年性認知症を患った夫を支える妻を演じた「明日の記憶」以来の名演。柄本明の巧みな演技も程よいスパイスとなっている。
 脚本・監督の朝原雄三は三國晩年の人気シリーズ「釣りバカ日誌ファイナル」までの後半7作のメガホンを執っていることを付記しておく。 

 劇中歌に使われているのはナット・キング・コール「スマイル」。舞台となった北海道・美瑛町(びえいちょう)の四季折々の風景とともに心に染み、耳にも残るしみじみとした名作。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 愛を積むひと
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。