<荒井幸博のシネマつれづれ> バンクーバーの朝日

不肖・荒井は山形中央高校の卒業生。その母校から横山雄哉投手、石川直也投手の2人のプロ野球選手が誕生するという報に接し、かつて野球小僧だった血が騒ぐまいことか。そんな折も折、格好の映画「バンクーバーの朝日」が12月20日に公開される。
20世紀初頭、新天地を夢見て日本人の多くがカナダに渡った。だが彼らを待ち受けていたのは人種差別、過酷な労働、貧困だった。そんな状況下で日本人街に野球チーム「バンクーバー朝日」が誕生する。
地元のアマチュアリーグに参加するが、非力な彼らはまったく歯が立たず、そればかりか不公平な判定をくだす審判にも苦しめられる。
正攻法では叶わないと悟った彼らはバントや盗塁を多用する戦法を思いつき、実践するとこれがまんまと的中、やがて朝日の快進撃が始まる。
はじめは「ジャップ」と軽蔑していた白人たちも彼らを応援するようになり、迫害され続けてきた日本人にとって朝日は希望の星になっていく。
だが好事魔多し、太平洋戦争が勃発すると日本人排斥運動が起き、チームは解散、彼らが再び集まることは2度となかった――。
「朝日」は実在したチームで、2003年にはカナダ野球殿堂入りを果たした。チーム結成100周年を記念して制作された映画で、監督は石井裕也、出演は妻夫木聡、池松壮亮、亀梨和也、勝地涼、上地雄輔、佐藤浩市、大杉漣、宮﨑あおい、貫地谷しほりら。
「差別や排斥運動などに遭遇しながらも生きた彼らの誇りを胸に、僕自身もこの世界ではいつくばって生きていけたらと考えてます」と妻夫木。当時のカナダを再現した美術にも目を見張る。
朝日の選手たちはアマチュアだったが、現在メジャーで活躍するイチロー、ダルビッシュ、田中将大ら、そして横山、石川両投手にとっても紛れもなく魁(さきがけ)となった偉大な男たちだった。
彼らを支えた人たちにも賛辞を贈りたい。

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。