徹底して山形に密着したフリーペーパー

<荒井幸博のシネマつれづれ> 友だちと歩こう

2014年3月28日
歩くことで紡ぐ友情

 足の不自由な2人の老人が杖を頼りに懸命に歩いている。道に放置してある自転車、粗大ゴミなど健常者にとってはなんでもない物が障害物となって行く手をさえぎる。2人は散歩しているのではなく、煙草を買いに行くために歩いている。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 友だちと歩こう

 歩くスピードは同じ。その遅さは虫に抜かれるほど。すぐそこのタバコ屋までの距離が果てしなく遠く思える。だからといって悲壮感はない。ともに同じ団地に住む独居老人。同じ速さで歩ける友だち同士の楽しい日課なのだ。
 松葉杖をついた若い娘が2人の前を歩いている。そのジーンズのお尻を「いいケツだ」「さわりてえなあ」などと言いながら、離されないよう必死に追いすがる姿はユーモラスですらある。
 物語は2人に加え、冴えない30男2人が絡み、4人の男たちが道を歩きながら紡ぎ出す友情を4つのエピソードで描く。イケメン俳優も美人女優もアイドルも登場しない。ドラマチックなことは何も起こらないが、愛おしい想いに駆られる。
  
 杖を突く老人・富男は上田耕一、友人・国雄は高橋長英。長年、脇役として活躍してきた2人が70歳を過ぎて主演を務めているのは特筆もの。
 プロデューサーも兼ね自主製作で作りあげた緒方明監督はおそらく「好きな俳優と気心の知れたスタッフで撮りたい映画を撮っただけ」と言うだろうが、この当たり前のことが今は稀少で、ベテラン監督の気概が伝わってくる映画だ。
 脚本は米沢市出身で、前号で紹介した「家路」の脚本も手がけた青木研次さん。緒方監督と青木さんのタッグは「独立少年合唱団」「いつか読書する日」以来9年ぶり3度目。

 個人的な話で恐縮だが、80歳代になって足腰が弱り、最近は歩行も困難になった父に苛立ち、厳しい言葉を投げかけることが多くなっていた。そんな時にこの作品と出会い、自分の愚かさ、配慮のなさに気付かされ、遅ればせながら父に優しくなれたのでした。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 友だちと歩こう
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。