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<荒井幸博のシネマつれづれ> 家路

2014年3月14日
震災と家族再生を描く

 震災で立ち入り禁止区域になった福島県の土地に黙々と鍬を打ち込み、田んぼを耕そうとする次郎(松山ケンイチ)。彼は地域の実力者だった父(石橋蓮司)、働き者の母・登美子(田中裕子)、腹違いの兄・総一(内野聖陽)という家族の中で複雑な少年時代を送り、中学時代にある事件の罪をかぶり石もて追われるように故郷を出た過去を持っていた。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 家路

 二度と戻らない覚悟でいたが、20年ぶりに無人となった故郷の土を踏み、電気もガスもない実家で寝泊まりして、かつて母がそうだったように農作業に精を出していたのだった。
 一方、登美子と総一は先祖代々受け継いだ土地から離れることを余儀なくされ、狭い仮設住宅で暮らしていた。農家の長男として生まれ育った兄は農作業すらできない鬱々(うつうつ)とした日を過ごしていた。心の柱を失って自尊心も崩れ、デリヘルで稼ぐ妻・美佐(安藤サクラ)にもバカにされる始末。その登美子も血のつながらない家族との仮設住宅での生活に疲れ、ストレスからか認知症の症状が表れていた。

 次郎の帰還を知った総一は、立ち入り禁止区域に次郎を迎えに行く。再会した総一に、ある思いに突き動かされてたった一人で苗を育てている次郎は頑として「ここでやり直したい」と告げる。
 仮設住宅を訪れた次郎を「みんな揃ったね」と優しく迎える登美子。翌日、次郎は実家までの山道を母を背負って歩いていく。そして仲良く腰をかがめ、キラキラ光る田んぼの中に3本の指を添えて丁寧に稲を植えていく母と2人の息子の幸せそうな姿があった――。

 震災から3年。復興はまだまだ道半ばだが、この映画は被災者の心の中にも希望の光を与えてくれるはず。また震災を風化させたり、対岸の火事にしてはいけないと強く感じさせられた。
 災害の爪跡の残る福島でオールロケを敢行した。オリジナル脚本を担当したのは米沢市出身の青木研次さん。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 家路
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。