<荒井幸博のシネマつれづれ> かぐや姫の物語
光り輝く竹の中から竹取の翁(おきな)に見出され、翁夫婦に育てられたかぐや姫は美しい娘に成長し、都で5人の貴公子から求婚を受ける。だが無理難題を突きつけて拒み続け、8月の満月の夜に月に帰っていく――。

日本最古の物語とされ誰もが知るこの「竹取物語」。本作を演出した高畑勲監督は「すごく有名だけど、読んで面白い、感動したという人は誰もいない。東映動画入社間もないころ、こうしたら面白くなるんじゃないかと企画案を考えたことがあった。かぐや姫はなぜ、何のために地球にやって来たのかを考えているうち俄然(がぜん)興味が湧いてきた」という。
それを55年ぶりに具現したのがこのアニメ作品。古典には描かれていない姫の心情に迫り、里山で貧しいながらも翁夫婦から愛情豊かに育てられた赤ん坊が、短期間で美しく成長する過程を細やかに描き出している。
あえて線をつなげないデッサン風の線に塗り残しを作った絵は、山、川、空、木々、葉、花、鳥、獣、虫などが不思議に懐かしく、いとおしく感じられる。
この里山での翁夫婦や幼なじみの捨丸たちとの日々が活き活きすればするほど、都で過ごすうちに月に帰らなくてはならなくなった時の姫の悲しみの深さに強い共感を覚えてしまう。また、お仕着せの結婚観などに疑問を抱き自分の考えを主張する姫の姿勢に、現代にも通じる古典の奥深さに驚かされる。
セリフは2011年に先行して収録し、それに合わせて画を描く「プレスコ」と呼ばれる収録手法をとっているので、翁の声を昨年亡くなった地井武男さんが熱演しているのも嬉しい。
個人的には高畑監督の「火垂るの墓」(1988年)に激しく感動し、やがて監督の知遇を得て「おもひでぽろぽろ」(1991年)でロケハンの手伝いをさせてもらっているので、高畑作品への思い入れはひとしお。そのひいき分を差し引いても本作は紛れもない傑作。

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。