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<荒井幸博のシネマつれづれ> そして父になる

2013年9月13日
取り違えられたわが子

 一流大学を出て大企業でエリートコースを歩み、都心の高級マンションに妻のみどり(尾野真千子)と6歳の一人息子慶多(二宮慶多)の3人で暮らす野々宮良多(福山雅治)は、絵に描いたような人生の勝ち組を謳歌していた。

<荒井幸博のシネマつれづれ> そして父になる

 そんな野々宮に突然、衝撃的な出来事が襲いかかる。産院からの電話で、慶多が取り違えられていて他人の子だという事実が判明。みどりは気づかなかった自分を責め、野々宮は他人に負けてもおっとりしている慶多に抱いていた違和感の正体を知るのだった。
 産院の仲介で、戸惑いながらも実子の琉晴(黄升炫[ふぁんしょうげん])を育てている斎木雄大(リリー・フランキー)・ゆかり(真木よう子)夫婦との接触を始める野々宮。
 斎木夫婦は群馬で小さな電気店を営んでおり、貧しい中で琉晴を含め3人の子どもがいるが、その野卑(やひ)な振る舞いや言動がどうにも馴染まない。こんな貧乏人でガサツな夫婦に琉晴も慶多も預けられないと考えるようになるのだったが――。

 5月24日に行われた「第66回カンヌ国際映画祭」で審査員賞を受賞した作品。2004年の同映画祭で当時14歳だった柳楽優弥に「誰も知らない」で最優秀男優賞受賞をもたらした是枝裕和監督の演出は健在。
 取り違えられた2人の子どもの演技が素晴らしい。2組の夫婦を演じた福山、尾野、リリー、真木もそれぞれ適役。リリーは貧しくとも子どもに対する深い愛情を注ぐことに労を惜しまぬ父親を好演している。
 そして、従来のイメージとはかけ離れて、エリート意識に凝り固まった鼻持ちならない男という役を演じた福山の演技も特筆もの。それまで見下していた斎木から子育てにおける決定的なことを指摘された時に人生初めて味わう挫折感、そしてそれからの変貌ぶりを見事に演じきった。
 映像も美しい。血のつながり、夫婦、家族、学歴、職業、人間力……。これらを改めて考えさせられる作品だ。


<荒井幸博のシネマつれづれ> そして父になる
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。