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<荒井幸博のシネマつれづれ> 宮崎駿監督5年ぶりの新作「風立ちぬ」

2013年7月26日
飛行機、戦争、純愛…

 「自分の映画を観て泣いたのは初めて」。宮崎駿監督が「風立ちぬ」の初号試写で観た後、感極まって搾り出すように発した言葉だ。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 宮崎駿監督5年ぶりの新作「風立ちぬ」

 第1次世界大戦や関東大震災、世界大恐慌などで閉塞感に覆われていた1920年代の日本。子どものころから飛行機の設計が夢だった堀越二郎は東大工学部航空学科を首席で卒業し、名古屋にある三菱重工で飛行機の設計に携わる。
 夢の中で、尊敬しているイタリア人飛行機製作者カプローニと時空を超えて出会い、彼との会話を通して「いつか美しい飛行機をつくりたい」と強く願うのだった。
 関東大震災のさなか汽車で知り合った菜穂子と数年後に再会、2人は恋に落ちるが、菜穂子は結核に侵されていた。
 自分の命が残り少ないことを悟った菜穂子は軽井沢の療養所を抜け出し名古屋の二郎の元へ。上司夫妻の仲人で祝言を挙げる2人。だが戦況は差し迫り、幸せな時は長くは続かなかった――。 

 堀越二郎は零式艦上戦闘機(ゼロ戦)の設計で知られる実在の人物。堀越の半生と、同時代を生きた堀辰雄の小説「風立ちぬ」をモチーフに、短くも懸命に生きようとした男女の姿が描かれる。個性的な声優陣、印象的な効果音、風景の美しさなどなど、紹介したいことは山ほどあるが、スペースの都合上割愛。

 エンディングで流れる主題歌「ひこうき雲」は荒井由実(現・松任谷由実)が73年に発表したデビューアルバムのタイトル曲だが、この映画のために書き下ろしたような詞で驚く。
 「ひこうき雲」は高校1年の時に小学校時代の友人の訃報を聞いたユーミンが「早世するってどういうこと?」という思いから作った曲だとか。
 そんなこととはつゆ知らず聴き流していたが、改めて聴く「ひこうき雲」に二郎の夢と菜穂子の短い生涯を重ね、また私が高校3年生の夏休みに喘息の発作で亡くなった同い年の従姉に想いを馳せていた。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 宮崎駿監督5年ぶりの新作「風立ちぬ」
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。