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<荒井幸博のシネマつれづれ> くちづけ

2013年5月24日
泣かずにいられない

 宅間孝行という俳優の存在を知ったのは最近のことだ。

<荒井幸博のシネマつれづれ> くちづけ

 2011年11月、劇団山形が「くちづけ」というタイトルの芝居を山形市中央公民館で上演。知的障害者のグループホーム「ひまわり荘」を舞台に仲間たちの交流と父娘の愛を描いた芝居で、大きな感動を覚えた。チラシには「作・宅間孝行」とあった。
 調べてみると「くちづけ」は宅間主宰の劇団「東京セレソンデラックス」が2010年に初演、「舞台史上1番泣ける」と話題を呼んで小劇場公演ながら2万4000人の観客動員を記録していた。ここで遅ればせながら宅間を意識するようになり、あの「花より男子」の脚本を手がけていたことも知った。 

 その「くちづけ」が映画化され、5月25日から公開される。原作者で映画でも演劇と同様「うーやん」を演じる宅間がムービーオン山形での試写会舞台挨拶のため5月10日に来県した。
 冒頭「山形はスキーで蔵王に来たくらい」と切りだした後、意外にも「実は母が新庄北高出身で、毎年サクランボを送ってもらっています」と明かしてくれたから、たちまち親近感が増す。

 「くちづけ」は宅間が10年以上前に目にした10数行の新聞記事をヒントに書きおろしたとか。ひまわり荘の住人と周囲の人々のユーモラスでほのぼのとしたやりとりに笑わせられ、物語に引き込まれる。だからこそ、決して肯定はできないが、父親の娘への想いゆえの行為と結末に涙を禁じえない。
 宅間のほか、貫地谷しほり、竹中直人、田畑智子、麻生祐未、平田満、橋本愛、伊藤高史、嶋田久作らがすべて好演。
 うーやんと貫地谷演じる知的障害者マコちゃんのカーテン越しのラブシーンは宅間自身が表現するように「映画史に残る美しさ」。
 主題歌でかつてアン・ルイスが唄っていた「グッド・バイ・マイ・ラブ」(熊谷育美)が切なく耳に残る。


<荒井幸博のシネマつれづれ> くちづけ
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜8時)を担当。