<荒井幸博のシネマつれづれ> 「相棒—劇場版—」嬉しい水谷豊の復活

アウトロー的主人公
水谷演じる杉下右京は東大卒のキャリア警部だが、仕事がキレ過ぎ、融通が利かない。このため上層部から疎(うと)まれ、特命係という窓際に押し込められている。
知的でクール、英国暮らしが長かったらしく紅茶好き。コロンボや古畑任三郎に通じる謎解きの名手。一見、変人とも思えるこの杉下右京役は水谷にとっては久しぶりの当り役になった。
15歳から存在感
水谷は15歳の時「バンパイヤ」で主演デビューを飾っているが、私が注目したのは1972年にフジテレビ系列で放映された「泣くな青春」から。「難しいことはよく分かんねえけどよ、曲がったことは大嫌いだ!」と相手を懲らしめる硬派の不良番長役を演じ、主役の中山仁や関根(現高橋)恵子よりはるかに魅力的に映った。
そして74年に日テレ系で放映された「傷だらけの天使」。「ア〜ニキィ〜」と萩原健一演じる木暮修に頼りっぱなしの弟分・乾亨(あきら)役は、彼以外には考えられなかった。

「熱中」でブレイク
水谷が大ブレイクした作品は何といっても78年から日テレ系列で放映された「熱中時代」。子供たちと正面から向き合う熱血教師・北野広大役がハマりにハマり、高視聴率を記録したのは記憶に新しい。
ただ、その後も主演ドラマはコンスタントに放送されるものの、「熱中時代」の二番煎じのような作品、役回りが続いていた感は否めない。「相棒」までの20年は「熱中時代」の呪縛に囚われた期間だったのではなかったか。
「陰」と「危」を好演
「相棒」の右京はエリートでありながら組織の隅に追いやられ、結婚にも失敗している。だが上司や警察組織にとって不都合なことでも平気で推し進めるという「陰と危うさ」を持ち合わせるという難しい役柄。それを見事に演じきる水谷。こんな水谷豊が見たかったのだ。

阿吽の呼吸、寺脇康文
右京の部下で相棒の亀山薫は熱血型でお人良し。演じるのは、寺脇康文。英国紳士風ファッションの右京に対し、亀山はTシャツにブルゾンとラフなスタイル。キャリア組とノンキャリ組、小柄な水谷に長身の寺脇と、どこまでも対称的なこの凸凹コンビの掛け合いは漫才のような妙味がある。
寺脇はもともと水谷の大ファンで、水谷のモノマネも得意。17年前に「刑事貴族1、2」で共演済みだった2人は、尊敬と信頼感から阿吽(あうん)の呼吸でやれているのだろう。
脇を固める共演陣
この2人に加え、岸辺一徳、鈴木砂羽、高樹沙耶、片桐竜次らおなじみの俳優、それに一般的には無名の川原和久や六角精児等といった小劇団の俳優が適材適所で脇を固めているのも面白さの要因か。
バラエティ番組全盛の今、視聴率を稼ぐために人気アイドルやお笑い芸人をキャスティングする傾向がみられるが、テレビの「相棒」にはそれがない。この方針は公開中の劇場版でも貫かれており、見応え充分。