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<荒井幸博のシネマつれづれ> わが母の記

2012年4月27日
初めて知る母の想い
 人気作家の伊上洪作は幼少期の8年間を両親と離れて育ったため、母・八重に捨てられたという想いを抱き続けてきた。
<荒井幸博のシネマつれづれ> わが母の記
原作は井上靖の自伝
 
 家では妻と3人の娘に囲まれているが、自分の価値観を押し付けることから娘たちからは疎(うと)まれがち。特に三女・琴子はことごとく反発した。
 父が亡くなり、母に認知症の症状が現れ、洪作は否が応でも八重と向き合わねばならなくなる。失われてゆく母の記憶の中で決して消えることのない記憶があった。洪作が知らなかった事実が母の口から初めて溢れ(あふ)出るのだった――。
 原作は井上靖の自伝的小説「わが母の記~花の下・月の光・雪の面~」監督は井上靖と同じ静岡県立沼津東高校卒の原田眞人。

30~40年代の家族描く

 原田は黒澤明研究家としても知られるが、最近では小津安二郎を再評価しており、小津作品を思わせる風格ある絵作りで昭和30~40年代の日本の家族を描き出している。

<荒井幸博のシネマつれづれ> わが母の記

役所と樹木がハマリ役

 井上靖をモデルとする洪作を演じた役所広司はまさにハマリ役。八重役の樹木希林は30歳から「寺内貫太郎一家」などで老け役を演じてきたが、それもこの役のためだったのかと思わせるほどの名演だ。白眉(はくび)は夜明けの海岸で役所に背負われる場面。

共演陣も好演
 
 三女役の宮崎あおい、長女役ミムラ、洪作の妹役の南果歩、キムラ緑子ら実績あるキャストに伍し、洪作の妻を演じた赤間麻里子、次女役の菊池亜希子、運転手役・三浦貴大も好演している。 
 母親ともっとたくさん会話しようと思わせてくれる逸品。


<荒井幸博のシネマつれづれ> わが母の記
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマ・パーソナリティーとして数多くの地元メディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。