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<荒井幸博のシネマつれづれ> マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

2012年3月23日
元首相の人間像を描く
 ひとりの老女がスーパーの棚から牛乳を取り、おぼつかない足取りでレジへと向かう。
<荒井幸博のシネマつれづれ> マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

現在は認知症に冒され

 この冒頭の場面は英国のマーガレット・サッチャー元首相の現在を撮ったドキュメンタリーかと見紛(みまが)うほど。主演のメリル・ストリープはサッチャーになりきって観客をグイグイ引き込んでいく。
 夫デニスと差し向かいでの朝食。デニスがトーストにバターを付け過ぎると口うるさく注意するマーガレット。そこへ娘が入ってくる。娘の目に映るのは老いた母が1人で食事をしている姿。
 観客はここで元首相が認知症に冒されていることを理解する。8年前に亡くなったデニスはマーガレットの幻想の中では存在し、常に会話を交わす場面が登場する。

栄光から挫折、孤独へ

 食糧雑貨商の娘として育ち、市長まで勤めた父の影響で政治家を志した若き日。下院議員落選、デニスとの結婚、出産。デニスの内助の功もあり下院議員当選。男性優位社会の中で保守党党首になり、そして首相に。
 愛国心を発露させたアルゼンチンとのフォークランド紛争での強硬姿勢では支持率を驚異的に上げたが、民営化の推進、労働組合への制限、失業率の増加、IRAテロなど次々に押し寄せる課題。強まる批判に対しても信念が揺らぐことはなかったが、足元の保守党から総スカンを食らい、退陣に追い込まれる。
 これは英雄物語ではない。欧米で初めて女性として国家のトップに立ち「鉄の女」として11年半も君臨したサッチャーも人の子。悩み、苦しみ、そして認知症にもなる。「あなたは、幸せだったの?」とデニスに問いかける姿が痛々しい。
 
メリル3度目のオスカー

 この映画でオスカーを手にしたメリルは「皆さんの大半が『またか』とうんざりでしょう」と述べたが、3度目の受賞も納得せざるを得ない名演技をみせている。


<荒井幸博のシネマつれづれ> マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマ・パーソナリティーとして数多くの地元メディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。