《おしえて!編集長》 どうなるの?東北芸工大―京都造形芸術大と統合へ―

統合って具体的にどうなるんですか?
学校法人を1つに
「東北芸術工科大学を運営している学校法人東北芸術工科大学、京都造形芸術大学を運営している学校法人瓜生山学園がいっしょになって新しい学校法人をつくり、ここが2つの大学を運営する形にするらしい」
「2つの大学の名称や学部・学科、教員組織はそのまま残すとしているから、計画通り来年4月1日に統合が実現しても傍目には以前と何も変わらないことになるね」
だったらどうして?
狙いは財務基盤強化
「いろいろ理由を挙げてるけど、1番の狙いは財務基盤の強化なんだろう。少子化で全国のほとんどの大学は経営に四苦八苦している状態だ。今のところ2つの大学は順調みたいだけど、東日本大震災の影響でこの先どうなるかが不透明になってきた」

大震災が引き金に
「特に芸工大の場合は東北出身の学生が多いので、目先的には被災した学生に対する学費減免措置が必要になるし、さ来春以降の募集に影響が出るのは避けられそうもないもんね」
「で、統合が実現すれば生徒数は1万871人、帰属収入は112億8000万円と芸術系の大学では国内最大規模になる」
「私立大学同士の統合ってさほど珍しいことじゃないんだけど、大半はどっちかが立ち行かなくなって一方が救済するケースや大が小を飲み込むケース。今回のように比較的元気で同規模の大学同士は希で、文部科学省も積極的に支援していくとしている」
いいことずくめじゃないですか。
「表面的にはそうなんだけど、今回の統合に複雑な思いを抱いている人も少なくないんだ。そのあたりの事情を説明するには芸工大設立の経緯からさかのぼって説明する必要があるね」
さかのぼって説明して下さい。
全国初の公設民営大学
「芸工大ができたのは今から20年前の1992年。それ以前の山形は4年制大学が国立の山形大学だけという『大学過疎地』で、第2の大学は悲願だったんだ」
「試行錯誤の末に、山形県と山形市が150億円を投じて土地と建物を提供し、学校法人が運営する全国初の『公設民営型』の大学として誕生したのが芸工大だった。創立時の運営費も含めれば県税と市税を合わせて196億円もの血税が注がれてる」
統合に伴い消滅へ
「それで今回の統合なんだけど、計画だと存続法人は京都の学校法人で山形の学校法人は消滅法人になる。つまり山形の財産だった土地と建物は京都に帰属してしまうことになる」
エー!エー! エー!
「このあたりの事情が一般には知らされてないけど、県民や市民が知ったら感情としてどうなんだろうね。県や市に問い合わせたところ、従来通りに大学が運営されていれば特に問題はないってスタンスなんだけど」
なんか釈然としない部分はありますね。
「そんな大事な問題にもかかわらず、話の進め方があまりに急すぎる感は否めない。山形の場合、6月13日の理事会で事務局から初めて議案として提出され、ほとんど議論もされないまま16日に発表になった」

短兵急の印象も
「細目は6月13日の理事会に基づいて設置された法人統合協議会で詰め、これを7月21日に開く理事会に諮って7月末には文科省に申請するというスケジュール。この間、わずか1カ月半だ」
「来年4月1日に間に合わせるための経営判断なんだろうけど、さっきも言ったように多額の血税をつぎ込んだ公設民営の大学としてはもう少し議論を尽くす必要があるんじゃないかなあ」
そうですよね。
行政はノーチェック
「学校法人の山形芸術工科大学は設立時から瓜生山学園に大学運営のノウハウを頼ってきた。人事をみても初代理事長の板垣清一郎知事、2代目の金澤忠雄市長のもとで瓜生山の徳山詳直理事長が副理事長を務め、金澤氏の後の3代目理事長に徳山氏が就任して現在に至っている。徳山氏は京都と山形の理事長を兼務してるわけだね」
「瓜生山に連なる理事は当初は徳山氏だけだったんだけど、その後は徐々に増えて現在は4人。一方で、当初は県と市がそれぞれ送り込んでいた理事は2004年以降はゼロだ」
「私立だから構わないという見方もあるけど、今回の問題が出てきてやっぱり施設を提供した県や市が少しは経営をチェックすべきだったという意見もある」
「特に20年前の開学に携わった人たちにその思いが強いようだ。『苦労してつくった大学が20年かけて外堀を埋められ、最後に乗っ取られた』なんていう人もいる」
これからどうなるんですか?
県民、市民感情は?
「実績が示すように経営者として徳山氏の手腕には定評があるけど、最終的には県民、市民がどう判断するかだろうね」
「ついでに言えば、こんな大きな問題を新聞やテレビはほとんど取り上げてなくて公式発表をタレ流してるだけ。マスコミの最大の責務は県民や市民に判断する材料を提供することなのにね」