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もう怖くない認知症/患者の脳と症状の関係(下)

2009年8月14日
 前回は認知症患者の脳(大脳辺縁系[だいのうへんえんけい])に悪い入力がもたらされたケースのお話でした。では逆に良い入力がもたらされた場合はどうなるのでしょうか? もう一度想像にお付き合いください。
 朝ふと目覚めると、確かここは我が家のはずなのにまったく見覚えがありません(空間の失見当識[しつけんとうしき])。不安に駆られていると見慣れない人が静かに近づいてきます(人物の失見当識)。
 誰だか分かりませんが、その人の雰囲気は好意的で悪い人ではなさそう。安心して「ここはどこですか」と尋ねると、優しくそっと肩に手を当てて「大丈夫ですよ、何も心配ないですよ」と伝えてくれます。
 辺りには花のいい香りも漂っています。ウットリしていると、また見慣れない人がやって来て笑顔を浮かべながら足を洗ってくれるではありませんか。気持ちがいい。なんとなくここは安全なところに思えてちょっと安心した気分になります。後で落ち着いたらここがどこなのかよく思い出してみよう。
 安心したらおなかがすいてきました。ごはんを食べよう。食べたら少し眠くなってきました。うん、今日はいい日だな。周りの人は親切だし、ここにいれば安心のような気がしてきました。
もう怖くない認知症/患者の脳と症状の関係(下)
 さてみなさんはどう感じられましたか? ここで挙げた花の香りはラベンダーアロマオイルのことで、認知症の患者さんの周辺症状を和らげる効果があることを私たちは論文報告しています。また足を洗ってあげる行為も同様に周辺症状には有効であることを論文で報告しています。
 香りや触覚、そして味覚などを介した心地よい刺激を大脳辺縁系に次々と入力すれば患者さんの不安を取り除ける可能性があるのです。自分が安心であることを実感できればかなりの頻度で認知症の症状は緩和できると考えられます。
 そしてこの効果を引き出す最良の薬は、身近な方の認知症に対する正しい理解なのです。

もう怖くない認知症/患者の脳と症状の関係(下)
藤井 昌彦(ふじい・まさひこ)
秋田県能代市生まれ。1983年弘前大学医学部卒業。山形県立河北病院などに勤務後、99年に医療法人東北医療福祉会理事長。日本老年医学会、日本認知症ケア学会に所属。東北大学医学部臨床教授も務める。