泌尿器講座/尿膜管遺残
ん。
へそからの膿や腹痛が
胎児がへその緒で母親の胎盤(たいばん)とつながっていることは知られていますね。この時期、胎児にはへそと膀胱(ぼうこう)をつなぐ尿膜管という組織があり、膀胱にたまった尿を尿膜管→へその緒を通じて母親側に排出しています。
通常、尿膜管は出生までに消えますが、消えずに残っている場合が尿膜管遺残です。この場合、尿膜管に雑菌が侵入すると「尿膜管膿瘍(のうよう)」を発症し、下腹部に痛みが出たり、へそから膿が出たりすることがあります。

あの羽生選手も!
尿膜管遺残の発症比率は成人男性の2%程度ですが、2014年にフィギュアスケート選手の羽生結弦さんが発症して手術を受けたことで一躍その名が広がりました。
根治には全摘手術
診断はCTやMRIで行います。初期治療は抗菌薬の投与で、必要なら尿膜管にたまった膿をチューブを挿入して排出します。
ただ改善しても再発することが多く、根治には感染のコントロールが十分についたところで尿膜管の全摘手術が必要で、全摘後にへその形成手術を行います。
希に尿膜管がんにも
尿膜管遺残があると、極めて希に尿膜管がんになることがあります。早期の尿膜管がんは膀胱にまで進行しておらず、血尿や排尿時の違和感といった自覚症状が乏しいとされています。
診断には膀胱鏡やCT、MRIなどを行います。膀胱内に進行した腫瘍の一部を膀胱鏡を用いて採取して病理診断を行うことも重要です。
治療は転移がない場合は、へそから腫瘍のある膀胱壁まで一塊に切除する外科手術を検討します。切除が難しい場合や他の臓器に転移を認める場合は、病状の進行を抑える目的で化学療法を行います。


●(いしい・たつや)1999年(平成11年)山形大学医学部卒業。同大附属病院、市立病院済生館、公立置賜総合病院勤務などを経て2020年5月いしい腎泌尿器科クリニックを開業。医学博士、日本泌尿器科学会認定専門医・指導医、日本医師会認定産業医。