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医学のうんちく/Y染色体の危機(下)

2022年7月8日
 人間の体は受精後に細胞分裂を繰り返し、一部の生殖細胞以外は基本的に同じDNA配列を持った細胞で構成されますが、以前から、男性の性染色体であるY染色体を喪失した細胞が血中にしばしば存在することが報告されています。

 この現象は「mLOY」といわれています。

mLOYとは

 体細胞における染色体の喪失はすべての染色体で発生する可能性がありますが、Y染色体以外の染色体には細胞の生存に不可欠ないくつかの遺伝子が含まれているため、染色体の喪失は細胞死を引き起こします。
 これに対し、男性のY染色体と女性の2つのX染色体のうち1つだけが細胞の生存に影響を及ぼさずに排除することができます。その結果、Y染色体を喪失して22対の常染色体と1つのX染色体を持った細胞が存在することになります。

医学のうんちく/Y染色体の危機(下)

がんリスクも上昇

 スウェーデンのウプサラ大学の研究チームは2014年、1153人の欧米人男性の血液を用いて調査し、mLOYが発がんのリスクやがん患者の悪い予後に関わる可能性を指摘しています。
 また理化学研究所の研究チームは19年、9万5380人の日本人男性を対象にした調査で、mLOYが加齢と喫煙に相関していると報告しました。

後天的な染色体変化?

 70歳を超えるとmLOYが40%以上に発生するという報告もあり、一般的な後天的染色体変化と考えられます。
 また発生頻度は低いものの、mLOYは若年層にも見られ、精子形成不全や低身長の原因になるとの見方もあります。

健康予測の指標にも

 加齢とともに体細胞のY染色体が消失していくことは悲しいことですが、mLOYは高齢男性の健康を予測する指標として、老化やがん化のメカニズムの解明につながると期待できます。


医学のうんちく/Y染色体の危機(下)
20220610
山形徳洲会病院院長
笹川 五十次
(ささがわ・いそじ)1982年 富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業、86年同大学大学院修了後、ハワイ州立大学医学部を経て、04年に山形徳洲会病院副院長、08年から現職。日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医、日本透析医学会認定透析専門医、日本腎臓学会認定腎臓専門医。