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<荒井幸博のシネマつれづれ>運び屋

2019年3月22日
イーストウッドが人生を投影?

 実話を元にしたヒューマンドラマ。クリント・イーストウッドが2008年の「グラン・トリノ」以来、10年ぶりに監督と主演を務める。

<荒井幸博のシネマつれづれ>運び屋

 90歳になろうとする園芸家のアール・ストーンはデイリリー(ユリ科の植物)の栽培で財をなすが、家庭は省みず、仕事や愛人との逢瀬に没頭していた。だが好事魔多しで妻子からは愛想を尽かされ、仕事もネット販売などに押されて不振に。
 すべてを失って孤独な日々を送るアールに初対面の男が「車の運転さえすれば金になる」と持ちかける。言われるままに仕事をこなし、大金を手にするアールだったが、その仕事はメキシコ犯罪組織による麻薬の運び屋だった――。

 アールは実在の人物だが、イーストウッドは自らの人生を投影させているかのようだ。30代で「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」でスターダムにのし上がり、40~50代は「ダーティハリー」シリーズでその地位を確立。その後は監督でオスカーを受賞するなど映画人として最高の成功をつかんだイーストウッド。
 私生活では2度の離婚に加え、6人の愛人に8人の子をなすという奔放な生き方をしてきた。
 特筆すべきは最初の妻との間に生まれた実子アリソン・イーストウッドがアールの娘アイリスを演じているところ。
 「お父さんなんて思ったことはない。家族はほったらかしだし、育ててもらったことはないわ!」と怒鳴り散らす場面は演技とは思えない迫力。イーストウッドが映画を通じて家族に詫びているようにも思える。
 88歳になり人生の終焉を自覚したイーストウッドが、失ったもの、大切なものは何だったのかを自らに問いかけた作品なのではないだろうか。


<荒井幸博のシネマつれづれ>運び屋
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜15時)を担当。