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<荒井幸博のシネマつれづれ>この道

2019年1月11日
「いつか来た道」への警鐘

 タイトルにもなっている童謡「この道」は誰もが口ずさんだことがあるはず。作詞は自由奔放な天才詩人・北原白秋、作曲は西洋音楽の普及に貢献、海外でもその名を知られる山田耕筰。本作は白秋の波乱に満ちた半生を耕筰との友情とともに描いたヒューマンドラマ。メガホンをとったのは「陽はまた昇る」「半落ち」「八重子のハミング」の佐々部清監督。

<荒井幸博のシネマつれづれ>この道

 九州から文学を志して上京し、奇抜な詩で名を馳せていた白秋(大森南朋)だったが、酒に溺れ、隣家の人妻(松本若菜)に手を出して姦通罪で入獄する始末。
 自由奔放な白秋とは対照的に、耕筰(EXILE AKIRA)はドイツ留学を経て、日本初の交響楽団を結成した生真面目な性格の努力家。性格も生き方も異なる2人に、児童文学誌「赤い鳥」を発刊した鈴木三重吉(柳沢慎吾)は「日本の子どもたちに日本人による童謡を創ろう」と持ちかける。
 当初は価値観の違いなどで反目する2人だったが、関東大震災で意気消沈する子どもたちを元気づけるため、手を取り合って数々の童謡を世に送り出すのだった。だが戦争の暗雲が垂れ込める中、子どもたちを戦場に送り出す戦意高揚の軍歌をつくることを命じられてしまう――。

 破天荒かつ無邪気な性格で、純粋に平和と安息を願う詩で幅広い支持を得た白秋と、その白秋のリズム感溢れる詩に深く共感し、数々の作曲を手がけた耕筰の人物像が興味深く、今も歌い継がれる名曲の誕生秘話に目からうろこの思い。主題歌の童謡「この道」はEXILEのボーカルATSUSHIが優しく歌い上げる。

 東日本大震災をはじめ多くの災害に見舞われ、憲法改正が現実味を帯びてくるなど、現代は白秋と耕筰が生きた時代と重なり合う面が多い。「決して当時と同じ道を歩んではいけない。だからこそ多くの皆さんに観て欲しい」と語る佐々部監督の言葉は重い。

<荒井幸博のシネマつれづれ>この道
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜15時)を担当。