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<荒井幸博のシネマつれづれ>教誨師

2018年11月9日
大杉漣さん渾身の遺作

 今年2月21日に急逝した大杉漣さんの所属事務所から、マネジメント業務を終了する旨の挨拶状が10月31日に届く。「そうか、もう漣さんはいないのか」という現実を否応なく突きつけられる。その漣さんが初めてプロデュースし、最後の主演作となった「教誨師(きょうかいし)」が公開される。

<荒井幸博のシネマつれづれ>教誨師

 教誨師とは、刑務所で受刑者に過ちを悔いて徳性を養うための道を説く者を指す。漣さん演じる教誨師の佐伯保は6人の死刑囚と対話する。
 6人は気のいいヤクザの組長(光石研)、年老いたホームレス(五頭岳夫)、関西弁でまくしたてる中年女(烏丸せつこ)、面会に来ないわが子を想い続ける気弱な男(小川登)、佐伯の問いに答えない鈴木(古舘寛治)、大量殺人を独りよがりな理屈で正当化する若者(玉置玲央)。
 佐伯は、彼らが犯した罪を悔い改めることで残り少ない〝生〟を充実させ、心安らかに〝死〟を迎えられるよう彼らの言葉に親身に耳を傾け、聖書の言葉を伝えるのだが、なかなか思うようにならず葛藤を抱える日々を送る。
 そして死刑囚たちと向き合うことで少年のころから封印してきた忌まわしい過去と対峙し、自らの人生とも向き合わざるをえなくなるのだった。

 ほとんどが教誨師と死刑囚の室内での対話劇で、俳優の力量が問われる。漣さん、光石、古舘らはもともと演技力には定評があるが、玉置、五頭、小川は新発見。そして烏丸の怪演に感服。
 メガホンをとった佐向大監督は長編商業映画2作目で原作・脚本も担当。演出力も含め漣さんが初プロデュースを買って出ただけのことはある。新境地を開こうとした意欲作が遺作になってしまったのは返す返すも残念。

 ヤクザ、校長、総理大臣、お人よしの中年男、殺し屋など幅広い役を演じ、「300の顔を持つ男」の異名を持っていた漣さん。最後の役が教誨師というのは、心優しく話し好きの漣さんにふさわしくはあるが…。


<荒井幸博のシネマつれづれ>教誨師
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。