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<荒井幸博のシネマつれづれ>泣き虫しょったんの奇跡

2018年9月14日
夢を諦めない人生

 藤井聡太七段の活躍で将棋界に注目が集まる中、史上初めてプロ編入試験でサラリーマンからプロ棋士になった瀬川晶司五段の同名自伝小説を豊田利晃監督が映画化。主人公しょったんこと瀬川晶司を演じるのは豊田作品4度目の松田龍平。

<荒井幸博のシネマつれづれ>泣き虫しょったんの奇跡

 子どものころから将棋一筋で育ってきたしょったんは中学卒業後、プロ棋士になるという夢をかなえるため、14歳でプロ棋士の登竜門・奨励会に入会する。そこには同じ夢を追いかける駿才たちが全国から集まっていた。
 奨励会には「26歳までに四段に昇格できなければ退会」という厳しい規定がある。夢破れ去っていく者、後輩ながら先に四段になっていく者。連日のように悲喜こもごもが繰り広げられていた。
 先輩や後輩と友情を温めながら死闘の日々を送るしょったん。22歳で三段に昇格し、プロ棋士を意味する四段昇格も間近かと思われた。
 だが四段の壁は高く、厚かった。26歳になる時、プロ棋士になるというしょったんの夢は砕け散った。

 挫折と絶望に打ちひしがれ、進むべき道を見出せずにいたしょったんだったが、27歳で大学に入学、31歳でサラリーマンに。アマチュアとして将棋を指し始めると、あれほど苦しかった将棋が子どものころのように楽しい。メキメキ腕を上げ、しばしばプロを負かしてしまうことも。
 そんな しょったんに「再びプロになるチャンスを!」という支援の声が高まり、1人の夢はみんなの夢になっていくのだった。

 35歳で晴れてプロ棋士になった瀬川五段。「意志のあるところに道は通ず」 の格言を体現した人間ドラマに感動する。
 メガホンを取った豊田監督自身、9歳から17歳まで奨励会でプロ棋士を目指し、挫折した経験の持ち主。それだけに奨励会での競争や人間関係にはリアリティを、そして盤上の戦いにはスペクタクルな迫力を大いに感じた。


<荒井幸博のシネマつれづれ>泣き虫しょったんの奇跡
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。