徹底して山形に密着したフリーペーパー

医学のうんちく/死後生殖(下)

2018年5月10日
 前号では、男性の死後、凍結保存した精子を使って体外受精する「死後生殖」についてお話しました。海外での事例を紹介しましたが、日本ではどうなのでしょう?

もうひとつの松山事件

 日本では2001年、愛媛県に住む40代の女性が医療機関に凍結保存していた亡夫の精子で体外受精し、出産したケースがあります。体外受精を行った施設には夫の死は告げていませんでした。
 夫婦の子として居住地の役所に提出した出生届けが受理されなかったため、翌02年、女性側は認知を求めて松山地裁に提訴します。関係者の間で「松山事件」と呼ばれた訴訟です。

医学のうんちく/死後生殖(下)

揺れる判決

 03年、この訴えを松山地裁は「自然な生殖とかけ離れている」として棄却しますが、女性側は控訴。高松高裁は04年、「血縁的な親子関係があり、夫の生前の同意もあった」として認知請求を認める判決を下しました。
 今度は検察側が判決を不服として上告します。世間の注目を集める中、最高裁は06年、「現行民法は死後生殖を想定しておらず、法的な親子関係は認められない」として2審判決を破棄、女性側の請求を棄却しました。

法整備を求める声

 精子の凍結保存は、不妊治療のほか、がんや白血病の男性患者が放射線治療などで無精子症になることを心配して治療を受ける前にしばしば行われています。
 死後生殖は特殊な事例ですが、06年の最高裁判決では2人の裁判官が補足意見として「早急な法整備が求められる」と指摘しています。

医療技術に追いつかず

 あれから12年の歳月が流れましたが、法整備の動きはみられません。
 代理出産や受精卵の遺伝子改変などを含め、生殖補助医療は常に生命倫理と隣り合わせ。医療技術に法律が追い付いていないのが現状です。


医学のうんちく/死後生殖(下)
医学のうんちく/Y染色体のお話(中)
山形徳洲会病院長
笹川 五十次 (ささがわ・いそじ)
プロフィール
1982年 富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業、86年同大学大学院修了後、ハワイ州立大学医学部を経て、04年に山形徳洲会病院副院長、08年から現職。日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医、日本透析医学会認定透析専門医、日本腎臓学会認定腎臓専門医。