徹底して山形に密着したフリーペーパー

<荒井幸博のシネマつれづれ> 彼女がその名を知らない鳥たち

2017年12月22日
問いかける“究極の愛”

 読んだ後にイヤな後味が残るミステリー“イヤミス”の旗手として注目を浴びている沼田まほかる作品としては熊澤尚人監督「ユリゴコロ」に続く同名小説の実写映画化。「スターウォーズ 最後のジェダイ」など正月映画の大作に隠れがちだが、見逃して欲しくない1本。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 彼女がその名を知らない鳥たち

 北原十和子(蒼井優)は、同居している下品で地位もない15歳年上の佐野陣治(阿部サダヲ)を蔑(さげす)み、罵倒しながらも彼の稼ぎに依存して怠惰な暮らしを送っていた。
 そんな十和子は8年前に別れた黒崎(竹野内豊)を忘れられないでいる。一方の陣治はすべてを承知のうえで十和子を妄信的(もうしんてき)に愛していた。
 そんなある日、十和子は黒崎に似た妻子持ちの水島(松坂桃李)と出会い、彼との情事に溺(おぼ)れていく。水島との関係を重ねるうち、いっそう陣治を疎(うと)ましく思う十和子だったが、そんな折、刑事から黒崎が自分と別れた後に失踪したことを知らされ、陣治がその件に関係しているのではないかと不安を抱く――。

 嫌悪し、軽蔑している陣治に容赦(ようしゃ)ない罵声を浴びせる一方で、昔の男の面影を追って行きずりの男との情事を重ねるどうしようもない女を蒼井が体当たりで演じる。
 阿部も風采(ふうさい)が上がらない陣治はハマリ役。どんなにいたぶられても、なり振り構わぬ十和子への執着ぶりには時に狂気すら感じさせるほどの名演。陣治の行動を肯定はできないが、その無償の愛には感動すら覚える。
 十和子を自分の出世や保身のために利用したクズ男・黒崎役の竹野内、欲望のまま気安く不倫する薄っぺらい水島役の松坂も、従来のイメージを払拭(ふっしょく)しての好演。  
 監督は「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌。山形市在住の作家・柚月裕子さんの小説「孤狼の血」映画化のメガホンを取り、来年5月12日に公開が控える。
 本作「彼女が~」はフォーラム山形・東根で来年1月6日から1週間上映される。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 彼女がその名を知らない鳥たち
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。