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<荒井幸博のシネマつれづれ> 八重子のハミング

2017年6月9日
崇高な夫婦愛に思わず涙

 山口県萩市在住の陽信孝さんが数度のがん手術を経験しながら、アルツハイマーの妻を介護した4000日にわたる記録を綴った同名手記を、同じ山口出身で「半落ち」「日輪の遺産」などの佐々部清監督が映画化。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 八重子のハミング

 ともに駆け出し教師だった誠吾(升毅)と八重子(高橋洋子)は山村の分校で出会い結婚する。月日は流れ、校長に就任した誠吾は胃がんを発病するが、誠吾を支え続ける八重子に若年性アルツハイマーの兆しが現れ、進行していく。
 がんと闘いながら八重子の介護を続ける誠吾。徐々に記憶をなくしつつも、好きな歌を口ずさんで笑顔を見せることもある八重子を見て、ゆっくり時間をかけて自分に別れを告げようとしているのだと思うようになる。
 誠吾はその後も4度のがんを発症するが、愛おしい妻に寄り添い続けるのだった――。

 10年前に陽さんの手記を読み、その夫婦愛にボロボロと泣いてしまったという佐々部監督。
 8年前から映画化を目指したものの、中高年が主人公で、介護がテーマでは興行的に厳しいと映画会社に断られ続けたため、自分で資金集めをして制作。低予算ながら想いを結実できたという。

 俳優生活42年目で映画初主演という升さんは、「主演と聞いた時はヤッター!と素直に嬉しかった。佐々部監督とは3年前に『群青色の、とおり道』でご一緒させていただき、信頼してもらえたという喜びもあった」「主演は不安でしたが、自然に誠吾になりきれた。高橋さん演じる八重子が本当に愛おしく、終焉の時が迫ると淋しくてたまらなくなっていきました」と話してくれた。

 高橋さんの映画出演は実に28年ぶり。佐々部監督が「この映画は八重子が〝子ども返り〟する中で恋愛から純愛になっていく12年間の愛の物語」と言うように、2人の崇高な愛に幾度も涙する紛れもない愛の物語。家族や友人、地域の人たちの支えも胸を打つ。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 八重子のハミング
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。