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<荒井幸博のシネマつれづれ> わたしは、ダニエル・ブレイク

2017年5月12日
福祉行政の現実をえぐる

 イギリス社会派の巨匠ケン・ローチ監督が、世界中でまん延する格差や貧困をテーマに手を差し伸べあうことの大切さを描き、2016年のカンヌ映画祭で2度目の最高賞(パルム・ドール)を獲得した傑作。

<荒井幸博のシネマつれづれ> わたしは、ダニエル・ブレイク

 イギリス北東部に住む59歳のダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)は大工仕事に誇りを持っていたが、突然の心臓発作を契機に医者から働くことを禁じられる。
 やむを得ず行政の援助を求めようとするが、あまりにも煩雑(はんざつ)な制度の前に途方に暮れる。八方塞(はっぽうふさが)り状態のダニエルだったが、そんな中でも偶然出会った身寄りも仕事もなく、2人の幼な子を抱えるシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)に救いの手を差し伸べようとする。
 同じ苦しみを味わう者として共感し、家族のような存在になっていくダニエルとケイティ母子だったが、やがて厳しい現実によって追い詰められていく――。

 ダニエルは長年、大工として働き、納税の義務もキチンと果たしてきた。そこからくる自信と誇り、権利への絶対的な信念を持つ。
 人としての尊厳を失うことなく、福祉に寄りかかって楽して生きようとしているわけではなかった。福祉行政の現状に風穴を開けようとするダニエルの抵抗に拍手喝采(はくしゅかっさい)を送りたくなる。
 「わたしは、ダニエル・ブレイク」というタイトルは自身の生き方の矜持(きょうじ)の表れなのだろう。

 真面目に努力しても報われない場合がある。そんな時に寄り添うのが福祉のはずだが、財政難の閉塞状況(へいそくじょうきょう)の中で行政にも余裕がなくなっている。
 今年1月、小田原市職員たちが「生活保護なめんな」とローマ字で書かれたジャンパーを着て働いていた事実が報道されたが、置かれている状況は彼我(ひが)も同じか。  
 2014年の「ジミー、野を駆ける伝説」を最後に引退したはずのローチ監督。引退を撤回してまで伝えたかった監督の思いあふれる渾身作(こんしんさく)。


<荒井幸博のシネマつれづれ> わたしは、ダニエル・ブレイク
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。