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<荒井幸博のシネマつれづれ> 聖の青春

2016年11月11日
夭折(ようせつ)した天才棋士の生涯
 難病と闘いながら将棋に人生を賭け、29歳の若さで亡くなった棋士(きし)・村山聖(むらやまさとし)の生涯を描いた大崎善生の同名ノンフィクション小説の映画化。
<荒井幸博のシネマつれづれ> 聖の青春

 幼少期から腎臓の難病ネフローゼを患い、広島で入退院を繰り返していた聖は父が勧めた将棋に夢中になる。それからの聖は将棋の最高峰・名人位を獲る夢に向かい、関西を拠点にまっしぐらに突き進むのだった。
 折りしも東京では同世代の天才棋士・羽生善治が台頭していた。聖は強烈に羽生を意識するようになり、ともに将来を嘱望(しょくぼう)された2人は「東の羽生、西の村山」と称されるようになる。
 努力の甲斐あり、並いる上位棋士たちを撃破して快進撃を続ける聖だったが、その身体はがんに蝕(むしば)まれていく――。

 聖役の松山ケンイチは原作を読んで感銘し、映画化の情報を聞いて自ら名乗りを挙げたとか。体重を20キロ増やす熱の入れようだが、肉体面だけでなく魂も乗り移ったかのような熱演を見せる。
 羽生を演じる東出昌大も本物と見紛(みまが)うほどの役作り。東出は羽生の熱狂的ファンで「どうしてもやりたい。自分以外にやって欲しくない」という思いで役を得たという。
 そんな2人の対局場面は実戦さながらの緊張感。2人が酒を酌(く)み交わし、腹を割って語り合う場面には感動を覚える。
 このほか染谷将太、リリー・フランキー、竹下景子、柄本時生、安田顕、筒井道隆ら芸達者な俳優陣が集結している。

 病弱で無頼、鮮烈に生きた伝説の棋士は決して孤独ではなく、両親や師匠、先輩や後輩など周囲の人たちの深い愛情に包まれていたことに安堵感が広がる。
 「村山さんの存在感の大きさを改めて深く実感した作品。彼の生き様や周囲の人々の濃厚な関係は時間の長さではなく密度だとも教えてくれた。彼と出会って対局が出来たことは棋士として大きな誇りで、大切な思い出です」――。映画を観て羽生 三冠が語った言葉がすべてを物語っている。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 聖の青春
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。