徹底して山形に密着したフリーペーパー

<荒井幸博のシネマつれづれ> 怒り

2016年9月23日
問いかける「信じること」

 「悪人」(2010年)で映画賞を総なめにした吉田修一原作、李相日(りさんいる)監督のコンビによるヒューマンミステリー。 
 東京・八王子で起きた凄惨な殺人現場の壁に残された「怒」の血文字。犯人は顔を整形し全国を逃亡していた。それから1年後。千葉、東京、沖縄に素性の知れない3人の男が現れる。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 怒り

 千葉の漁協で働く洋平(渡辺謙)には元風俗嬢の娘・愛子(宮崎あおい)がいた。愛子は漁協の新顔、田代(松山ケンイチ)と恋に落ち、二人は同棲するようになるが、洋平は素性が分からない田代に不安を覚える。
 東京の大会社に勤めるゲイの優馬(妻夫木聡)は直人(綾野剛)と知り合い同棲を始める。直人は末期がんを患う優馬の母(原日出子)にも優しく接するが、自分のことを語ろうとはしない。
 沖縄の離島に移住してきた高校生の泉(広瀬すず)は同級生の辰哉(佐久本宝)とボートで無人島に上陸し、廃墟に住む謎の男・田中(森山未來)と出会う。泉は田中に興味を抱くが、そんな泉を悲劇が襲う。 

 3つのドラマは交差しないが、それぞれに登場する疑わしい若者。テレビに映し出される犯人の監視カメラ映像やモンタージュ写真を目にし、3人を取り巻く人々は「もしかしたら…」と疑い始めるのだった――。

 渡辺謙を筆頭に主役級の俳優それぞれにとってこれまでのイメージを打破したり、ひと皮剥けたりの間違いなくエポックメイクとなる作品。
 中でもゲイカップルを演じた妻夫木と綾野は本番に備え2週間もの同居生活を送ったほか、森山はあらかじめ沖縄の無人島で暮らし、宮崎は役のために体重を7キロ太らせたという。

 ネットの発達で情報は溢れ、家族や友人、時には愛する人でさえ疑ってしまう現代に「信じる」ということはどういうことなのかを問いかけてくる。坂本龍一が奏でる音楽「許し」が一層心を震わせる。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 怒り
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。