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<荒井幸博のシネマつれづれ> 「二重生活」

2016年7月22日
尾行の先に見たものは――。

 ゲームデザイナーの卓也(菅田将暉)と同棲している珠(門脇麦)は大学院の哲学科で学ぶ学生。担当教授・篠原(リリー・フランキー)の薦めから、1人の対象を追いかけて生活や行動を記録する理由なき〝哲学的尾行〟を実践することになる。当初は戸惑いを感じていた珠だったが、偶然見かけた、マンションの隣の一軒家で美しい妻と娘と幸せな家庭生活を送る編集者の石坂(長谷川博己)を対象に定めたのだった。
 半信半疑で始めた石坂の尾行だったが、彼の意外な秘密が明らかになるにつれ、他人の日常を覗(のぞ)き見する行為にのめりこんでいくのだった――。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 「二重生活」

 原作は直木賞作家・小池真理子の同名小説。メガホンを執ったのはドラマ「開拓者たち」「ラジオ」など秀作を数多く演出してきた最上町出身の岸善幸氏で、本作が映画監督デビューとなる。
 小池が描く尾行という難しいテーマを選んだことについて岸監督は「理由のない尾行で他人の秘密をのぞく。そこから見えてくるものに映画的題材として惹(ひ)かれた」「本音と建前という二面性は誰にでもあり、僕自身にもある。だからこそ面白がって映画にできた」と話す。

 珠の尾行生活の様子はカメラの揺れでリアルに演出されている。観客である我々が珠と同じ視線で尾行し、覗き見しているような気にさせられてしまう。「かつてない心理エンターテイメント」という公開前の触れ込みは決してオーバーではない。

 岸監督は幼少のころから雪深い最上地方で暮らし、雪に閉じ込められ、雪に包まれながら考えてきた発想や精神を入れ込んだという。
 小学校4年生の時、「エクソシスト」「燃えよドラゴン」を新庄市の「三吉座」の大スクリーンで初めて観た衝撃は「今も忘れられない」という。
 岸善幸監督52歳。これから先、間違いなく数多くの名作を送り出してくれることでしょう。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 「二重生活」
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。