徹底して山形に密着したフリーペーパー

<荒井幸博のシネマつれづれ> さざなみ

2016年3月25日
不用意な夫のひと言が…。

 英国の田舎町で暮らすジェフとケイトは週末に結婚45周年祝賀パーティーを控えていた。そんな時、ジェフにスイス警察から1通の手紙が届く。

<荒井幸博のシネマつれづれ> さざなみ

 ジェフには50年以上前、雪山で行方不明になった恋人がいた。温暖化で雪が融け、恋人の遺体が当時のままの姿で発見されたというのだ。感慨に浸るジェフは、無神経にも元恋人との思い出をケイトに語り出す。
 ケイトはこの世には存在しない元恋人への嫉妬心を募らせ、夫の不用意な発言、行動に拭いきれない不信感を増幅させていく。
 そして迎えた祝賀パーティー。ジェフは「私の人生で最大の収穫はケイト、君と出会い結婚できたことだ」と涙ながらにスピーチ。2人の思い出がつまった曲「煙が目にしみる」が流れる中、ジェフとケイトは集まったみんなの祝福を浴びてダンスを踊るのだが――。

 ケイトを演じるシャーロット・ランプリングの演技の奥行きの深さに脱帽。ランプリングはアカデミー主演女優賞こそ逃したものの、全米映画批評家協会賞主演女優賞などを受賞。研ぎ澄まされたランプリングの演技をさらに光らせたノー天気夫ジェフを演じたトム・コートネイも素晴らしく、2人はベルリン国際映画祭銀熊賞(主演女優賞、主演男優賞)をダブル受賞している。

 老いてもなお、男と女の性(さが)があぶり出されるような映画だ。
 本作のような老いを迎えた夫婦の日常、心の移り変わりにスポットを当てた映画の企画は日本では通りにくいのかも知れない。日本だったらケイトを誰が演じられるだろう?ジェフは?容易には想像できない。

 脚本と監督は英国人のアンドリュー・ヘイ。この春、「マリーゴールド・ホテル幸せへの第二章」「Mr.ホームズ名探偵最後の事件」「グランドフィナーレ」など“老後”をテーマにした作品が続々と公開される。そのすべてに英国が制作に加わっていることが興味深い。


<荒井幸博のシネマつれづれ> さざなみ
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。