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<荒井幸博のシネマつれづれ> 恋人たち

2016年1月22日
キネマ旬報で1位に輝く

 昨年公開の映画を対象にした「キネマ旬報ベストテン」で、日本映画の1位に選ばれた作品。監督は橋口亮輔(りょうすけ)。
 主人公は3人。通り魔に妻を殺され、絶望の淵(ふち)にあるアツシ、夫や姑との渇いた生活の中で、優しい声をかけてくれた男に心をときめかす瞳子(とうこ)、親友への愛を秘め続けている弁護士の四ノ宮。
 冒頭はアツシの独白から始まる。一瞬「ドキュメンタリー?」と思わせるが、3人の物語がオムニバス形式で交錯しながら描かれ、観る者をどんどん引き込んでいく。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 恋人たち
 3人を演じるのは篠原篤、成嶋瞳子、池田良などほとんど無名の俳優。彼らはワークショップで橋口監督に才能を見出された新人という。
 光石研、リリー・フランキー、安藤玉恵、山中聡、山中崇(たかし)などお馴染みの俳優も出演しているが、3新人が出色の演技をみせる。

 アツシの仕事が橋梁(きょうりょう)の強度を診断する仕事という設定が面白い。小型ボートに乗り込み、東京の高速道路の下にあるコンクリート柱をハンマーで叩いて調べるのだが、人気テレビドラマ「天皇の料理番」で主役の佐藤健をイビリ続けた黒田大輔が上司を演じる。
 「天皇の…」とは打って変わり、いつもエビス顔でアツシを見守る。アツシが「俺は絶対に犯人を殺す!」と言い放った時、「殺すのはやめた方がいいな。俺はもっとあなたと話がしたいもの」と穏やかに諭(さと)す。こんな人が傍らにいてくれたらどんなにいいんだろうと思わせてくれる。

 若くもイケメンでも美しくもない彼らが、どんどん魅力的に見えてくるから不思議。重く、悲惨になりがちな物語の中でそこはかとないユーモアを織り交ぜる橋口監督自らの手による脚本も素晴らしい。
 理不尽に甘んじ、恵まれない状況下で我慢を強いられる立場の人間が増加の一途をたどっている昨今、誰にでも陽は昇り、朝はやってくるんだ!と勇気づけてくれる作品だ。

<荒井幸博のシネマつれづれ> 恋人たち
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。