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<荒井幸博のシネマつれづれ> 母と暮せば

2015年12月11日
永遠のテーマ・母と子の絆
川西町出身の作家、故・井上ひさしさんの広島を舞台にした戯曲「父と暮せば」はつとに知られる。生前の井上さんが長崎に舞台を移して対になる「母と暮せば」という戯曲を書きたがっていたことを知った山田洋次監督が、遺志を引き継いで映画化した作品。企画に井上さんの3女で「こまつ座」代表の麻矢さんが名前を連ねる。
<荒井幸博のシネマつれづれ> 母と暮せば

 終戦間近の長崎。助産婦の伸子(吉永小百合)は長男を戦地で失い、医大に通う次男の浩二(二宮和也)と暮らしている。医大生なら召集される心配もないと安心していたが、B29が投下した原爆が浩二の命を奪う。

 それから3年後、浩二の命日の1948年8月9日。死んだはずの息子・浩二が現れる。戦死した長男が夢枕(ゆめまくら)に立ったこともある伸子は驚かず、積もる話に花を咲かせる2人。最近見た映画のこと、親戚・知人のこと、そして浩二の恋人だった町子(黒木華)の幸せのこと。
 「町子さんに好きな人ができたらあなたは諦めるしかない。あの子の幸せを考えなきゃ」と諭しても、浩二は駄々っ子のように受け入れない。町子も「私は生涯浩二さんの妻。他の人とは結婚しない」と言い張る。
 夜ごと現れる浩二と伸子の話題は町子の幸せに落ち着く。そんな幸せな母子の時間は永遠に続くと思われたが――。

 吉永小百合は「おとうと」「母べえ」に続く山田作品。このところ善良で無垢(むく)な役どころが多かったが、自分の息子だけ助かって欲しかったという自己本位なところも見せる当たり前の母親を熱演している。それを引き出した二宮和也の活き活きした演技にも注目。黒木華は山田作品「小さいおうち」でベルリン国際映画祭銀熊賞を獲得した実力派。浅野忠信、橋爪功、加藤健一らが脇を固める。

 ラストに流れる坂本龍一作曲「鎮魂歌」長崎市民200人大合唱は、戦後70年の掉尾(ちょうび)を飾るに相応しいハーモニーを奏でる。


<荒井幸博のシネマつれづれ> 母と暮せば
荒井幸博(あらい・ゆきひろ)

1957年、山形市生まれ。シネマパーソナリティーとして多くのメディアで活躍、映画ファンのすそ野拡大に奮闘中。現在FM山形で「荒井幸博のシネマアライヴ」(金曜夜15時)を担当。