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<荒井幸博のシネマつれづれ> 転校生~セルフリメイク 名監督の特権?

2007年8月10日
 公開中の映画「転校生」は、大林宣彦監督が1982(昭和57)年にメガホンをとって映画化したものを、大林監督自ら25年ぶりに再映画化したセルフリメイク作品である。
<荒井幸博のシネマつれづれ> 転校生~セルフリメイク 名監督の特権?

古くは「無法松の一生」

 セルフリメイクで思い浮かぶのが稲垣浩監督の「無法松の一生」。伊丹万作のシナリオで最初に映画化されたのが1943年(昭和18年)。当時の大スター阪東妻三郎の名演もあり、日本映画史に残る名作なのだが、この映画は当時の軍国主義政府の検閲によって約10分カットされた。
 カットされたのは、無学粗暴な松五郎が大日本帝国陸軍人の未亡人に恋するなどもってのほか、「銃後の守り」をする妻にも悪影響を及ぼす、ということだったらしい。
 この映画は敗戦後、今度は日本を統治したGHQ(連合軍総司令部)によって再度の検閲を受ける。男の子が軍歌や明治時代の小学校唱歌「青葉の笛」を唄う場面など約8分間が、軍国主義回帰につながりかねないということでカットされた。

稲垣浩監督の意地

 稲垣浩監督は、理不尽な理由によって戦中と戦後の2回にわたって18分余りも切られた無念の想いを、58年(昭和33年)に三船敏郎・高峰秀子主演、カラーワイドスクリーンで再映画化した。このセルフリメイク版はベネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を受賞して溜飲を下げている。
<荒井幸博のシネマつれづれ> 転校生~セルフリメイク 名監督の特権?

「ビルマの竪琴」 「犬神家の一族」

 他にセルフリメイクでは市川箟監督の「ビルマの竪琴」がある。
 56年(昭和31年)年に三國連太郎・安井昌治主演で映画化し、29年後の85年(昭和60年)に石坂浩二・中井貴一主演で再映画化。この時は「ビルマの赤い土をどうしてもカラースクリーンに描きたかった」と理由を語っている。
 市川監督は76年(昭和51年)に大ヒットさせた「犬神家の一族」も30年後の昨年、金田一耕介役を同じ石坂浩二で再映画化している。
 どうやら市川監督は30年ほど時間がたつと、再映画化したくなる性(さが)をお持ちなのかもしれない。もっとも、長きにわたって一線で活躍している市川監督だからこそできたことである。

舞台は尾道市から長野市へ

 82年版「転校生」は大林監督の故郷・広島県尾道市を舞台に、主人公の中学3年の男の子と女の子が、ひょんなことで体が入れ替わり、そこから起きる悲喜劇をみずみずしく描き上げた青春映画の傑作。主演の小林聡美、尾美としのりは、現在も俳優として活躍しているが、この作品で得たものが大きいと思う。
 公開中の「転校生」の舞台は尾道市から長野市に移る。基本的なストーリーは同じだが、「生と死」がテーマに加わっている。そう、リメイク作の正式タイトルは「転校生 さよならあなた」なのだ。

可憐さと親近感光る蓮沸美紗子

 主役に抜擢された蓮沸(れんぶつ)美紗子は「時をかける少女」(83年)の原田知世、「さびしんぼう」(85年)の富田靖子、「ふたり」(91年)の石田ひかりのように、大林作品から巣立っていった女優に通じる可憐さと親しみやすさ、小林聡美のような幅の広さを併せ持ち、大林監督をして「彼女とこの時期に出会わなかったら本作は誕生しえなかっただろう」とまで言わしめた。
 これからが楽しみな女優である。