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<荒井幸博のシネマつれづれ> 山桜

2008年3月14日
「凛(りん)」とした藤沢作品
<荒井幸博のシネマつれづれ> 山桜
海坂藩を舞台に
  最初の夫とは若くして死に別れ、2度目の結婚相手は金銭欲と出世欲しかない男。しかも嫁ぎ先からはことごとく「出戻り」呼ばわりされ、つらい思いで日々を暮らす女、野江が主人公。
 久しぶりに実家に帰った野江。美しい山桜の枝を折ろうとするが、手が届かない。偶然、背後にいた手塚弥一郎が手折ってくれる。「今はお幸せでござろうな」と桜の枝を手渡しながら野江に語りかける弥一郎。野江は「はい」と形だけの返事をするのだった。
 海坂藩士の娘として望まない結婚を繰り返し、ドツボにはまるように不幸になっていく野江、そんな野江に長年想いを寄せながら独身を通し、母一人子一人の暮らしを送っている弥一郎。 私利私欲のため農民に過酷な年貢を強いる藩の重臣に反撥(はんぱつ)した弥一郎は、義憤に駆られて事を起こしてしまう。
<荒井幸博のシネマつれづれ> 山桜
女性の幸せとは
 物語後半で、桜を手土産に弥一郎の母・志津を訪ねた野江に「おや、きれいな桜ですこと」と声をかける志津の声の晴れやかさ。息子が入牢し、訪ねる人も無くなっていた我が家を良くぞ訪ねてくださったという嬉しさが滲み出たものだった。
 そういう点では、野江が志津を訪ねるという行為は、よほどの覚悟がないと難しく、おそらく野江がその生涯で初めて能動的におこした行動ではなかったろうか。自らの幸せなどとうに諦めていた野江が、回り道を経て、幸せになれるのかもしれないと希望を抱かせてくれるシーンだ。
 監督は篠原哲雄。「死者の学園祭」(2000年)、「天国の本屋〜恋火」「深呼吸の必要」(04年)、「地下鉄に乗って」(06年)など、青春ドラマやサスペンス、感動作品と幅広くメガホンをとっている。いま最も忙しい監督の一人だ。
<荒井幸博のシネマつれづれ> 山桜
田中麗奈が好演
 ヒロインは田中麗奈。17歳の時に映画「がんばっていきまっしょい」(磯村一路監督)でデビュー以来、一貫して映画女優として歩み、近年の「夕凪の街 桜の国」(07年、佐々部清監督)、「魍魎の匣」(07 年、原田眞人監督)での成長ぶりは目覚しく、本作では初の時代劇ながら藤沢文学のヒロインを見事に演じきった。
 篠原監督とは「はつ恋」(00年)以来8年ぶり。偶然なのか「はつ恋」も「桜」が大きな役割を果たす作品だった。
 弥一郎を演じた東山紀之は、そのストイックさ、凛(りん)とした涼やかなたたずまいは、まさにハマリ役。切れ味鋭い殺陣も見せてくれた。
 弥一郎の母役の富士純子のはんなりした物腰と艶やかな声、野江の母役壇ふみの大らかな笑顔も忘れられない。

一過性でない藤沢ブーム
 02年公開の山田洋次監督「たそがれ清兵衛」を皮切りに「隠し剣鬼の爪」(山田洋次監督04年)、「蝉しぐれ」(黒土三男監督)、「武士の一分」(山田洋次監督06 年)と藤沢周平作品が映画化公開。その間、NHKテレビでも「蝉しぐれ」(03年)、「秘太刀馬の骨」(05年)、「風の果て」(07年)がドラマ化。毎年途切れることなく藤沢作品が映像化され、そして「山桜」。
 これは、もはや一過性のブームにあらず。同県人として誇らしく、嬉しいかぎりである。
 全国公開に先駆けて山形では4月下旬から先行上映されることになっている。